Doll 25-Sibling




「どうしたの、ママ」


リビングにはパパとリクもいた。
さっきの出来事が頭にフラッシュバックして、恥ずかしくてリクから少し距離を取った。


「あのな……パパとママな……」


どことなく、重たい空気が流れる。


「パパ? どうしたの?」
「…………はぁ」


パパが大きな溜め息をついた。


「嘘……でしょ……」
「……ごめんな、アリス」
「リク、ごめんなさい」


そう言って、二人は何か紙を取り出した。


「離婚届、じゃないよね?」
「え? 離婚届?……なに言ってるのよ、リク」


ママとパパが大笑いした。
リクが紙を広げる。


「温泉のパンフレット?」
「そうなのよ。パパが職場のお取引先の方から招待されたんだって」
「ここ、最近出来たばかりの旅館だよ。雑誌やテレビのCMとかで見たことあるよ!」
「……で、さっきの重い空気は何?」
「それなんだが……本当にごめん!」


何となく、パパの言いたいことが分かった気がする。


「いいよ。行ってきなよ、二人で」
「いい、のか?」
「二人分の招待だったんでしょ?」
「あ、ああ……」
「1週間くらいどうにかなるって。ね、リク!」
「そうだね。昼間は学校だし」
「……ありがとうね、二人とも」


パパとママは新婚旅行も行ってない。
旅行もいつも四人、一緒で。
きっと、それは私の為なんだと思う。


「本当に、行ってもいいのか?」


リクが部屋に戻り、ママがお風呂へ行くとパパが聞いてきた。


「大丈夫だって」
「……強くなったな、アリス。直前まで言えなかったのが恥ずかしいくらいだよ」
「ママだってパパに幸せになってほしいって思ってると思う」
「ずっと幸せなんだがな」


そう言って、パパは小さく笑った。


「……事故現場……笑顔のママがいたんだよ」
「行った……のか?」
「うん。ずっと避けてたんだけど、ね」
「そうか、行ったのか。あそこ、カイヅカイブキがあっただろう?」
「木の名前?」
「そう。あの木は……パパが植えたんだよ。ママを忘れない為に。それから暫くは毎日、通ってたんだが……」


パパは深く溜め息をついた。


「ここ何年かは命日くらいしか……」
「今から、一緒に行こうよ」
「そうだな」
「明日は……ちゃんと私が行くから」


パパとさっき行った場所に向かう。
樹に向かって二人で手を合わせる。


「明日も学校だ。もう帰ろう」
「うん」


“また来るね”
初めて、ママに向かって話せた。

僅かな時間だったけど、パパと来れて良かった。
パパはずっと、一人で抱えてたんだね──


「もう隠し事は無しだからね、パパ」
「ああ、ありがとう」



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