Doll 2-Words that I wanted to convey




「もしかして“まさか”……証拠品が出てくるとは、ってか?」


リゼルが私の耳元で低く囁いた。
リゼルは明らかに楽しんでいる。

“違う!  私じゃない!!”
そう言いたいのに声にならない……


「他の女にスージィ取られて、ムッキーで殺っちゃった?」


静まり返った教室にリゼルの声が響いた。


「スージィって変わり者だけど、すげー良いヤツだったのにな」
「私なんか怪我した時に手当てをしてもらったよ」
「あいつって確かいいトコ育ちじゃなかったか?」
「さり気なくスージィ狙ってたのに……」


などと口々に話しながら皆が私を見る。
集まる視線がもの凄く痛い……

事実を確かめる事もせずに、偽りの証拠で答えを出す──
信じたくない現実だ……

涙が頬を伝い落ちていく。


「泣いて済む女は楽でいいねぇ。その前に行くトコあんだろ~?」


リゼルは手紙で私の頭をポンポンと叩いた。

否定したいのに声にならない……
何か言った時、今度はもっと酷い事を言うのも分かってる……
痛くて辛くて……悔しいよ


「んじゃ、俺様が連れてってやるよ。ア・リ・スちゃん」


リゼルが私の肩に手を置いた。

恐怖が重くのしかかってくる──
ガタガタと体中が震える。


「ちょっと!  いい加減にしなさいよ!」


そう言ってクラリスは私の前に出た。


「アリスは違うって言ってんじゃない!」


クラリスの言葉が凄く嬉しかった。
私の言葉を受け止めてくれる存在が嬉しかった──


「お前に用はねーんだよ」
「きゃあ!」


リゼルは躊躇うこと無くクラリスを突き飛ばした。


「クラ──」


叫ぼうとした時、後ろから声が聞こえてきた。


「女イジメて楽しんでんじゃねェよ」


ハルクだ。
ハルクがクラリスを受け止めていた。
一方のクラリスは頬を赤らめてハルクを見ている。


「誰だ、お前?」
「安心しろ。オレもお前なんざ、知らねーからよ」



一瞬の出来事だった。
クラリスを座らせたハルクがリゼルを一発、殴った。
リゼルは一番前の机に飛ばされて倒れた。


「弱ェーんだよ」
「……クソッ」


リゼルはハルクを睨んだ後、這うように教室を出て行った。


「ハルクくん、ありがとう」
「ああ」
「あなたが来てくれなかったら──」
「アリス」


ハルクは、クラリスの言葉を遮って私に向き直った。


「…………あ……りがとう……」
「大丈夫だったか?」


ハルクは私の頭に手を置いて心配そうに言った。
ハルクの手は温かかった。


「う、うん」


気のせいかもしれないけど、ハルクが妙に優しく感じた。
昨日までとは“何か”が違うような……

昨日といえば……

『……お前、まさか──』


目の前にハルクの顔があって、額が触れ合った。


「おい、どうした?」
「な、何でもない」


恥ずかしくなって俯く。
と、リゼルが持ってきた写真が落ちていた。


「あ……」


私は慌てて写真を拾おうとした。
──が、私よりも先にハルクが写真を拾った。


「…………何だよ、コレ……」
「それは──」
「……ざけんなよ」


ハルクは写真をクシャクシャに握り潰した。

何に対して?


「……ハルク?」


私は恐る恐る声を掛けた。

しかし聞こえなかったのか、ハルクは無言で教室を出て行ってしまった。



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