Doll 22-Shadow




放課後、音楽室に忘れ物を取りに行った。

音楽の授業、そして最後のホームルーム中は視線を感じなかった。
気が抜けたんだろうなぁ……


「良かった……あった」


机の中の楽譜を手に取り、鞄にしまう。

音楽室を出たと同時に前から銀色の男子生徒が走ってきた。
避けようとした瞬間、彼に腕を掴まれる。


「助けてくれ!」
「あの、どうし──」
「追われてる……怖い」


彼の指差した方向から、ふくよかな体型の女子生徒がスナック菓子を食べながら現れた。
思わず音楽室へ逃げ込む。

深呼吸ひとつ、数秒前のことを思い返す。
追ってきた人物……それは──


「カラリナ……さん?」


ずっと感じていた視線は彼女のものだと気付いた。
でも、どうして?

──カラリナさんはクラスメイト。
いつも一人でいて……正直、地味で目立たない。
ただ、悪い噂も聞いたことがある。
それは確か男関係だったはず……
と、いうことは私を見てたのって──


「見ぃ……つけた」


声と同時に乱暴にドアが開く。
……鍵、閉め忘れていたことに気が付く。


「どいて、邪魔よ」


カラリナはアリスを押し退け、男子生徒へ近付く。


「あの!  これから約束あるの」
「約束?……コイツと?」
「えっと……」
「ったく! 彼氏じゃないなら譲りなさいよ、今すぐに」
「ハルク達も一緒だから!」


咄嗟に出た嘘。

男子生徒と二人じゃないと分かると、カラリナさんは舌打ちして“いい気になるなよ、ブス”と言って去っていった。


「大丈夫ですか?」
「サンキュ、アリス」


そう言って、“彼”は前髪を掻き上げ顔を見せた。


「え……ドラージュ?」


今までの彼とは全く印象が違った──
ドラージュは完全に男にしか見えない。
制服も男子用で……長かった髪はバッサリと切られていた。

ドラージュはケラケラと笑いながら言う。


「ははッ! アイツが惚れるのも無理ねーだろ? お前はどーなの? 」


逃げ出そうとドアノブに手を掛ける。
しかし、すぐにドラージュにその手を掴まれてしまう。


「なーんで、逃げるのさ」
「何でって……あなたは──」
「もうさ、敵じゃねーし」
「……え?」
「Arice・Doll……アイツは──」


ハッとした。
彼なら知ってるかもしれない、と。


「じゃあ、教えて!  今、Arice・Dollは──」
「肉体ない黒い塊」
「それ……じゃあ……」


涙が溢れてくる──……

やっぱり、彼はリクなんだ。
リクが本当に帰ってきたんだ──


「アリス?……って、おい!」


ドラージュの手を振り切って、音楽室を出た。
早く…………リクに会いたい!


「…………今は、なんだけどな……ま、いっか。ボクには関係ないし」



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