Doll 21- continuous rain
今日はパパもママも仕事で遅い。
リクと二人の夕食。
簡単に作れるカレーを作って、テーブルに並べた。
リクと二人での食事は遥か昔のことに感じる。
両親不在の時はハルクやラセン達がいて……賑やかだった。
……静かすぎるって感じるのはそのせいかな。
「姉さん」
「何、リク?」
「その……彼氏はいるの?」
「なっ!」
リクから出た突然の質問にむせてしまう。
「姉さん、大丈夫?」
紅茶を飲んで呼吸と心を整える。
「ごめ──」
「いないよ」
「男の気配感じた。別に隠さなくていいよ。いても不思議じゃないんだから」
「リクこそ──」
「チーズケーキはどうしたの?」
「あれは……友達へのお礼」
「喜んでくれた?」
「……ははは」
苦笑いしか出ないよ……
「もう少し味見しとけば良かったな」
そう言ったリクは、とても遠くの存在に感じた。
「リク──」
「実は……さ、図書館で読みたい本があって。でも補習のあとだと閉館時間がなくて」
「題名分かる?」
「この本なんだけど、頼めるかな」
そう言って、リクは小さなメモ用紙をポケットから取り出した。
「“Doll's”?」
「とある人が勧めてくれたんだ」
「どんな本なの?」
「とても悲しい本」
「悲しい?」
「内容は分からないけど、読んでって……それだけ言われた」
一瞬、心がざわついた。
とある人って、Arice・Dollじゃない……よね?
「リクが読み終わったら、私も……読んでみようかな」
「姉さんは苦手だと思う」
「え?」
「……全文、英語。それも昔に消えた国のね」
「リクは読めるの?」
「僕、選択教科は古代分野だよ?」
そう言ってリクはクスクスと笑った。
私もつられて笑う。
リクの一瞬の間が何故か気になった。
「でも、読みたいなら訳すよ。多少は時間かかるけどね」
「それじゃあ、読み終わったら内容教えて」
「僕に気を使ってる?」
「気は使ってないけど、勉強の遅れも取り戻さなきゃだから」
「……ありがとう」
リクの笑顔はとても辛そうだった。
「おかわり……いる?」
「ううん。もう勉強するよ」
食器洗いを終えるとリクはリビングを出ていった。
リクを見送って振り返ると、ハルクが壁に寄りかかりながらムスッとしていた。
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