Doll 19-First Love
あれはオレっちが5歳の餓鬼だった頃──
「オレっちが何したってんだよ!!」
元々、村の人間じゃないというだけでいじめの餌食。
本当にオレっちが何したってんだよ。
親にも言えなかった。
貧乏ながらも愛情だけは溢れていた家。
なにがあってもオレっちが笑うと親は喜んでくれた。
だから……悲しませることなんて出来るかよ。
「やめろよ!」
しかし日に日にいじめはエスカレート。
何度、殺されかけたか……もう分からない。
いつしか殺意を抱くように……
でもそれは心に秘めていた。
「いじめは、いじめられる方に原因があるのよ」
突然現れた少女が言った。
そう、彼女こそがリコリス。
「オレっちが悪いってのかよ!」
「人の話は最後まで聞いてよね」
「イヤ──」
「私はそう思わない」
「え……?」
意外な言葉と共に彼女に抱き締められた。
「よそ者だから仲良く出来ないってなんなの? 私は知りたい! 何が違うの? 生きてるのは……同じじゃない!」
その言葉に涙が溢れてくる。
「私と友達になろ?」
リコリスは一番欲しかった言葉をくれた。
これがオレっちの……初恋。
「リコリス、今日は何して遊ぶ──」
ふと、リコリスの足にあるアザが目に留まった。
昨日はなかったような……
そういえば、最近のリコリスは作り笑顔が多い気がする。
振り返れば振り返るほど背筋が凍っていく。
「タスク……まだ約束の時間じゃ……」
「いつもリコリスを待たせてるからなっ! 男として女を待たせるわけには──」
「今はダメ! 早く帰って!」
「なんで? 昨日より長く遊べる──」
言葉が終わるよりも早く、後ろから強く肩を掴まれた。
「おうおうおう! 今日はおそろいで」
振り返ると、村の子供がゾロゾロと集まっていた。
その意味が餓鬼のオレっちにですら理解出来た。
「リコリスをいじめたんだな?」
「いじめてねーよ」
言いながら、リコリスを何度も蹴る。
「やめろ……やめろよ!」
「遊んでんだよ、お前の代わりに」
ふざけるな……ふざけんなッ!
「同じだろ!」
「何がだよ」
「生きてるのは……同じ……」
「それが嫌なんだよ!」
「え──」
目の前でリコリスの身体が宙に浮く。
何が起こったのかが分からない。
横たわるリコリス。
逃げるように去っていく、村の子供達。
恐怖の矛先は……オレっち。
リーダーの少年も青ざめて逃げていった。
「な、何だよ……今の……」
脚が……身体中が震え上がる。
自分の身体がバラバラになるような感覚だ。
……オレっちがやったのか?
「ねぇ……大丈夫?」
「って、リコリス──」
「ふふ、こんなの掠り傷」
誰が見たって、掠り傷には到底見えやしない。
それなのに彼女は、そう言った。
「いつまでも、そんな泣きそうな顔しないの」
「でも……」
「タスクは悪くない。強風に煽られただけ」
「リコリスも見たでしょ! オレっちが──」
「もしも見てたとしても……私はタスクの友達にかわりないよ」
「なん……で?」
この時、オレっちがリコリスを守るって決めた。
次の日から村の子供達の対応が変わった。
今までにはなかった挨拶。
不思議と怯えてる様子はなかった。
「おはよう、タスク。友達、増えたんだね!」
後から知ったことだけど、リコリスがみんなに説明してくれたらしい。
“神様がバチを与えようとしたんだよ”
彼女らしさに笑顔がこぼれたのを今でもよく覚えている。
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