Doll 16-Dora
「来ない……」
既に夜空。
月は見えない、曇っているから。
「先生に呼び止められているのかなぁ。それとも──」
ううん。
悪い方には考えない。
今のリゼルは、そんな人じゃないって分かってる。
「何やってんだよ、お前」
「……ハルクこそ」
「オレは当番」
「今日のハルク、本当に変……」
「へェ、サボれってか?」
「違──」
「力の事、考えたくねェんだ……情けねェ、笑っちまうだろ?」
「どうして笑うの?」
「どうしてって……今のオレはただの──」
「人間は弱くなんて──」
「人間なら、な」
「え?」
「何でもねェ」
タスクさんを……力を失ってからハルクは寂しそうに笑うようになった。
「で、お前はまだいるわけ?」
「う……ん」
「リゼルを待ってるとかじゃねェよな?」
「……」
「マジかよ。けど、残念だ。アイツ帰ったみてェだけど?」
「そっか……」
「信じてた自分を責めたりすんなよ」
「え?」
「ほら、アイツ単細胞っほいし」
「そう……だね」
ハルクもリゼルを信じたいんだ──
「一発、殴るけどな」
「リゼルを?」
「何だ? お前、殴られてェのかよ」
「やめてよ。ハルクに殴られたら──」
あ……れ?
「おい、どうした?」
「へ……いき」
大丈夫なんかじゃない──
足が鉛のように重たくて、冷たくて凍えそう……
何が起こったのかが分からない──
恐る恐る足元を見る。
「え──」
子供──……!?
「ボクを壊シテ」
「きゃあっ!」
「アリス──!」
雨がポツンポツンと背中に当たる。
それは、段々と強くなっていく。
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