Doll 16-Dora




「悪戯にしちゃ笑えねェ」
「っつたく、女が女に手ぇ出すんじゃねぇよ」


ハルクとリゼルが私とドラージュを引き離す。


「あ、あり……が…………」


肩に触れるハルクの温もりが、昨日の出来事を思い出させる。


「おいおい、また泣くのか?  泣き虫」
「泣かないわよ、馬鹿!」
「ォイ、ミドリ頭。汚い手、離せよ」
「誰に命令してんだよ、テメェは」
「あれ?  もしかして、ボクに惚れちゃった?……気持ち悪りぃんだけど」
「ぶっ殺されてぇのか!」
「暴力はんたーい!」
「はぁ?」
「なんてな。じゃーな、アリス」
「ひゃ……っ」


ドラージュはリゼルの隙をついて逃れると、私の頬にキスをして去って行った。
私は突然の事に驚いて座り込んでしまう。


「アリス、大丈夫か?」
「う、うん……」
「あんの野郎!」
「待、てよリゼル」
「あんだよ?」
「アイツ、アリスを呼び捨てしてたけど?」
「そういえば……でも、私さっき会ったばかりだよ」
「名前、名乗るなよバーカ」
「言ってない……と、思う」
「なわけあるか!」
「けど、アイツ……どこかで……」


ハルクも会った事があるの──?


「いや、やっぱ気のせいだな」
「とにかく!  あいつには近づくんじゃねぇ」
「それ、お前が言える台詞か?」
「うっせぇ!」


……“あの日”からリゼルが怖くなくなった。
今は確信できる。


「ありがとう……リゼル」
「お、おう……」
「顔赤くねェ──」
「夕陽のせいだっつの!」
「二限目で?」
「だぁっ!  うるせぇんだよ、ハルク!」


そして、立ち止ってしまったハルクの背中を押してくれたのもリゼル。


「足も、もういいのか?」
「うん」
「そっか、ならいい」


ハルクも、また少し優しくなった気がする」


三人で歩く廊下。
会話という会話は無かった。
ハルクとリゼルのやり取りが微笑ましくて、心地よくて。
あっという間に教室の前だった。


「じゃあな」
「ハルク、今日は真面目に授業受けてるんだね」
「まぁ、な」


隣の教室に入っていくハルクの背中を見送ってから、教室のドアに手を伸ばす。


「おい、さっきから呼んでんだけど。シカトしてんの?」

「え?……ゴメ──」

「そうじゃねぇ……ったく」


リゼルは自身の左手に拳を一発入れると私に向き直る。


「その……何だ……放課後に、だな……」
「授業始めるぞ、入れ」
「邪魔すんな、テメェ!  と・に・か・く、だ! 放課後、校門出た所で待ってろ!」
「え?」
「いいな、アリス!」


言うなり彼は、とっとと来た道を走り去った。


もしかして、心配してくれてる……のかなぁ。
そういえば、学校で会う事が増えたと思う。


「……ありがとう」


呟いて教室に入る。

この時、私は名前で呼ばれていたなんて気にもとめなかった。



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