Doll 13ーCradle
ゆっくりと変わる景色。
空は少しずつ夜の闇に呑まれていく。
私とハルクは、乗ってから言葉一つ交わしていない。
私を気遣ってくれているのかも……
横目でハルクを見る。
と、目が合う。
もしかして、私の事……ずっと見てた?
意識した瞬間から、鼓動が早くなった。
気付かれたくなくて……胸の前で手をぎゅっと握って耐える。
「どうだ、少しは落ち着いたか?」
丁度、天辺に差し掛かった時だった。
ハルクの口から出てきたのは予想外の言葉。
てっきり、馬鹿にされるか……心配されるかと思っていたから。
「とっくに落ち着いてるって」
「嘘だろ、ソレ」
「本当だよ」
「ふ~ん」
そう言って、ハルクは私の顔をまじまじと見る。
「な、何……?」
「いや。薄暗いせいか、お前の顔が少し赤く見えただけ」
「気のせいだよ」
言って、顔を背けた。
この距離じゃ聞こえてしまいそうなくらい、心臓は驚いている。
何度も“落ち着いて”と呪文を唱えた。
ふと、視線をハルクに戻す。
と、彼は窓の外を見つめていた。
「……綺麗だな」
「うん……」
「こんなにも平和なのに、な」
耳を澄まさずとも聞こえる車の音。
街を思い浮かべれば、賑やかな人々。
「そうだね」
「けど、この賑やかな明かりも直に夜の闇が飲み込んじまう」
ドキンってした。
きっとハルクは遠回しにリクの事を言っているんだと思う。
「……光なんざ、呆気ねェ存在なのかもな」
「そんな事、無い!」
リクが闇に飲み込まれたなんて……
希望が無いなんて思ってない──!
「へェ、何で?」
「何でって……」
「言ってみろよ、アリス」
と、真剣な眼差しを私に向ける。
「月が闇を照らしてるから……」
「当たり前の事じゃねェ──」
「どんなに暗くても、足元だけは見える!……ちゃんと、前に進めるようにって」
私は月を見上げる。
「前に、か」
呟いてハルクも月を見上げた。
今夜は三日月。
私達を乗せたゴンドラは地上に向かっていく。
もう直ぐ、長いようで短い時間が終わる。
そう思った時だった。
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