Doll 9ーThe day when she was broken
「ハルク、ゴメン。オレっち──」
「鍛えてるから平気ですから」
ハルクの強がりを何となく感じる。
これもやっぱり……
思いながら顔を上げると、タスクさんと目が合った。
「ありがとな……アリス……」
「でも、一瞬しか……」
「この一瞬、オレっちには……すげェ長かった……ありがとう」
タスクさんは、涙でクシャクシャになりながら何度も“ありがとう”と言った。
私も緊張の糸が解けたのか、目元が熱くなって……泣いた。
「何でお前が泣くんだよ」
「うるさいなぁ……ほっといてよ」
そう言って顔を上げると、ハルクの目元と鼻が赤かった。
なによ……強がっちゃって……
「兄貴、アリスに何か付いてんの?」
「いや……」
少し離れた所にセツナとラセンは居た。
「何か嬉しそうじゃん」
「僕にとっての大切な人が助かったんだ、そりゃあ嬉しいさ」
「大切って、リコリスが?」
「初恋の相手だと話さなかったか?」
「へ? 初耳なんだけど!」
「なら、これ以上は触れるな」
「って、どこ行くんだ?」
「少なくとも彼女の時間は延びたんだ」
セツナの瞳にアリスが映る。
「おい」
「な、何?」
「……警戒しなくてもいい」
そう言って、セツナは私の頭にポンと手を置いた。
掌から少しだけ認められた事が伝わってきて、嬉しくてまた涙が零れ落ちていく。
同時に闇への恐怖を体が感じて、こっそり怖さに対しても……泣いた。
それを感じたのかハルクは無言で抱き締めてくれた。
ラセンが何も言ってこないから、少しハルクの胸を借りるよ──
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