Doll 9ーThe day when she was broken




瞳(め)を開けると、彩り豊かな花々が広がっていた。


「此処がハルク達の世界?」
「一部にしか過ぎないけどな……あそこだ」


ハルクが指を差した場所へ出来る限り花を避けて向う。


「リコリス、久しぶりだな」


そう言うと、ハルクはリコリスさんの手の甲に軽く口付ける。

リコリスさんは純白の百合の花に囲まれて眠っていた。
タスクさんがいつも花が枯れる事がないように手入れをしているんだって、ハルクが言ってた。


「リコリスさん、初めまして……アリスです」


想像していた以上にリコリスさんは綺麗な人だった。
女の私でも思わずドキドキしてしまう。


「ねえ!  タイムリミットが近いって言っただろ……早くしてよ」


ラセンが言うと、今まで無言だったセツナさんも苛立ちながら私を睨んだ。


「わ、分かってますってば!」
「いい。焦んなくて」


ハルクがそっと私の手を握って言った。


「ちょっと、ハルク!」
「我慢しろよ、ラセン。リコリスはコイツに任せるしかないんだ」
「ラセンに冷たく当たるな」
「お前は少しくらい空気を読めよ」
「……ラセン、行くぞ」
「へっ?」
「このままだとハルクを殴り倒したくなる」
「それはダメだ!……特別の特別だからな、アリス」


セツナとラセンは一瞬で姿を消した。
二人きりといっても不自然じゃない空間。

どうしよう……ハルクの顔が見れない……
集中しなきゃ……今はリコリスさんを助ける事だけを考えなきゃ──


「ハルク、もう平気」
「やるのか?」


小さく頷いてリコリスさんの手を握る。
その手はとても冷たくて生きているとは思えなかった。

けど、諦めたらそこで終わりだって教えてくれた人がいる。
私も“諦めない”……
意識を、感情を研ぎ澄ます──



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