Doll 1-Heart that failed
「お待たせ」
着替えを終え、ドアを開けた。
何もない、すっきりした廊下。
そこにハルクはいた。
ハルクは、壁に寄り掛かって腕を組んで目を閉じて……何かを考えているかのように見えた。
私は、改めてハルクに質問する。
「…………リクが言った“Arice”って何?」
ハルクが何者なのかも気にはなるけど、リクが気がかりだった。
リクは、どうなっちゃったのか……
ハルクがリクに言った“バケモノ”ってどういう意味なのか──
「……知らねェよ」
ハルクは、ぶっきらぼうに答えた。
ビンタをされたハルクは、やっぱり機嫌が悪いみたい……
「叩いた事は謝るから──」
「知らねェってんだろ!」
「ちょっと! 機嫌、直してよ」
「直すも何も、機嫌悪くねェよ!」
「悪いじゃない!」
「悪くねェ!」
「悪い!」
「……お前の目はガラス玉か?」
「へ……?」
「ガラス玉じゃ見えなくても仕方ねェわな」
カチーンときた。
なによ……
あんたなんて……
「……子供……」
「あ?」
「……ビンタされたくらいで拗ねる方がよっぽど子供じゃない!」
ハルクの目つきが変わる。
「あん?……お前さ、誰にもの言ってんだ?」
「あんたに決まってんでしょ!」
「あんた、ねェ……いい根性してんのな、アリス」
「な、なによ」
ハルクにあごを掴まれた。
キス……される!
そう思った瞬間、ハルクの顔がグッと近付く──
リク以外の人をこんなに近くで見たのは初めてだった。
……ドキドキする……
私は思わず目を瞑る。
「“Alice”が何なのか、知りたいんじゃねェのか?」
ハルクが耳元で囁いた。
「……へ?」
服が肩からずり落ちる。
もう……勘違いしちゃったじゃない!
「お前、顔が真っ赤だぜ?」
「だっ、誰のせいだと思ってるのよ!」
「ヘェ……期待したんだ?」
「違──」
「安心しな。お前みたいなブラコン女にゃ興味ねェから」
「ブッ……ブラコン女!?」
当たってるから余計に悔しい。
言い返そうとしたけど、ハルクの表情が真剣だったから出来なかった。
すると、ハルクが口を開いた。
「知りたいんだろ?」
「え?」
「“Alice”の事」
「だ、だから聞いてるんじゃない!」
「詫びの一つもなく、か?」
「う……っ」
ハルクは勝ち誇った顔で私を見た。
結構、根に持つタイプだ……
リクとは正反対だよ!
「知りたくないのか?」
「…………」
悔しいけど、こんな事をしてる場合じゃない。
それに私も出会って間もない人にビンタするなんて、どうかしていたのかもしれない。
そう思ったら自然に言葉が出た。
「ごめんなさい……」
「…………チッ」
私の反応が気に入らなかったのか、ハルクは舌打ちをしてそっぽを向いた。
やっぱり、教えてくれないんだ……
写真に手を伸ばそうとした時、ハルクが呟いた。
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