Doll 9ーThe day when she was broken
明日、リコリスさんの所へ行く事になった。
まだ気持ちの整理どころか状況すら呑み込めていない。
もうすぐ夜が明けるというのに眠れずにいた。
カーテン越しの窓の外によく知る背中が見える。
私を安心させる為か、見張りなのかは分からないけど……ずっといる。
「ね、ハルク……」
窓を少し開けて小さな声で話し掛ける。
「何だよ。さっきの質問には答えねェからな」
「……起きてたんだ」
「何か、眠れなくてな……」
「私も……」
「そっか」
いつも以上に持たない会話。
それに……
さっきといい、どこかハルクの様子が変な気がする。
いつもの勢いは無く時折、苦しそうで辛そうで……
もしかしたら、私の辛さを感じていたのかな……
“一心同体”どこまで感じてしまうんだろう?
不安や恐怖だけではなく、もしかしたらリクへの思いも──?
「おい」
ハルクの声のトーンが一気に下がった。
これは気のせいじゃない。
「な……に?」
恐怖を感じながら答える。
あの時……
リゼルに見せた強さや怖さとは全く違う。
そんな事を思いながら様子を伺う。
「ドキドキすんじゃ……ねェよ!」
怒鳴り声に私は思わず肩をすくめる。
「……オレまで……勝手にドキドキすんだよ!」
「え?」
夜の寒さのせいかもしれない。
ハルクの耳が少し赤い。
「ドキドキする……って?」
「まだ頻繁じゃねェけど……こんなんばっかじゃ……頭がおかしくなりそうなんだよ」
「それ……私のせいなの?」
「はぁ? 当たり前だろ」
「本当に?」
「こんな事なら契約すんじゃなかったぜ」
そう言って、ハルクは頭の後ろで手を組んで空を見上げた。
私も追うように見上げる。
太陽が登るところだった。
「契約……しなかったら死んでたじゃない」
「死ぬのと生きるのは、どっちが大変なんだろな」
「いきなり何?」
「最近、ちょくちょく考えてんだよ」
その言葉に様々な出来事が蘇ってくる。
「アリス?」
呼ばれてハッとする。
「ヤダな……涙なんて」
「そうだよな。死ぬのも生きるのも辛いんだ」
ハルクは私の涙を人差し指で拭って続ける。
「どちらにしても、誰も望んじゃいねェしな」
「どうして、そんな事……」
「知るかよ! あぁもう、全部お前のせいだ」
「何よ!」
「もう知らねェ、寝る!」
「ちょっと、ハルク! そこ私のベット──」
「うるせェな。どうせ眠れないんだろうし、外に居ればいいだろ」
「寝るわよ! じゃないと……頑張れない気がする」
言いながら恥ずかしくなる。
ハルクに触れている指先、ハルクの言葉に……
「……ってもう寝てるし」
溜め息をついて、窓に寄りかかり空を見上げた。
次第に明るくなる眩しさに目を閉じる。
眠りに落ちる寸前、誰かが私の肩を抱いた。
ハルクではない、と思う──
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