Doll 9ーThe day when she was broken
連れて来られた先は地下道。
明らかに人を寄せ付けないくらいの悪臭を放っていて、一瞬でも気を抜けば倒れてしまいそうだった。
「率直に言う。リコリスを始末するんだ」
セツナの声が静かな空間に響き渡る。
「……始末って、何?」
私の言葉にセツナは見下したような笑みを浮かべる。
「お前にしか出来ない、そうハルクに言われなかったか?」
「まさか、殺せって言うの?」
「そうとも取れるな」
「な……っ! 出来るわけないじゃない!」
「やめろ、二人共! もうリコリスは──」
「それは言う必要はない」
何かを言おうとしたハルクをセツナが止めた。
「人殺しなんかじゃない。それだけは言える……」
そう言って、ハルクは目を伏せた。
信じていいのか……正直、分からない。
けど──
「どうして私なのよ、セツナ!」
「勘違いするな。僕の調べによると、リコリスは人間と接触する事で目を覚ます可能性がある」
「それなら私じゃなくても……そうだ、タスクさんだって」
「無理だ。オレらは──」
「言うな、ハルク!……認める事になる」
「そうだな」
一体、何の話をしてるの?
私には知らない事がありすぎる。
「良かったじゃん、アリス。出来る事があって」
嫌みったらしくラセンが言った。
……何か悔しい。
「そうだね」
負けじと胸を張って言ってやった。
「けど、リコリスを殺す可能性もある」
「ちょ……何それ……」
「あの女はお前とは違って繊細に出来てるという事だ」
「あははっ。そうだね、兄貴」
「悪かったわね、繊細じゃなくて」
「……全くだ」
悔しいけど言い返す言葉が見付からない。
リコリスさんの話を聞いたから尚更……
馬鹿にするようなラセンの笑い声が頭に響いてくる。
「お前ら、いい加減にしろよ」
「ちょっと! ハルクはアリスの肩を持つわけ?」
「少し黙ってるんだ、ラセン」
「ちぇ~」
と、ラセンは私を思い切り睨む。
その目は「あんたのせいよ」と言っているようだった。
「セツナ、説明不足だろ……」
「この女に理解が出来るのか?」
「理由を言わなきゃ協力するも何もねェだろ」
「フン……無駄かも知れないがな」
「どうして、そんなに私を嫌うの?」
「それこそ自分の胸に聞け」
自分の胸にって言ったって心当たりなんかないし……
「リコリスの体が消えかかっている。ロストタイムだ」
「ロストタイム?」
「眠ったままの時間に限界が来たという意味だ」
ハルクが呆れながら答えた。
「ホント、面倒な女だねお前は」
またラセンが突っかかる。
「いいから続けてくれ」
「そんな弱った体に良くも悪くも人間が触れる。生か死か……これは賭けなんだよ」
「じゃあ……リコリスさんは人間じゃないの?」
この質問には誰も答えてくれなかった。
「見れば分かる」そう、ハルクが言っただけ──
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