Doll 1-Heart that failed
「ハルク様だ」
肩の力が一気に抜ける。
振り向くとハルクが偉そうにベッドに座っていた。
「脅かさないでよ、も~」
写真立てをそっと机に戻す。
リクじゃなかった事にショックを受けるも、ホッとする私がいた。
昨日の事が現実なら、私はリクに会いたくない。
……ううん、リクじゃないから会いたくない……
それにいきなりすぎて、まだ頭の整理が何一つと出来ていない。
「しっかし、狭い部屋だな」
「って、どこから入ってきたのよ!」
出入り口はドアと窓だけ……
それに、まだハルクが何者なのかすら分からない。
「ずっと、居たさ」
ハルクは天井を見つめて言った。
「ずっと?」
「お前をベッドまで運んだのはオレだぞ?」
「へ? それって……」
「気を失ったお前が悪い」
「気を失ったって……」
「まあ、気持ちは分からなくもねェがな」
「……ねえ、リクは?」
「言ったよな、いないって」
「違う!……リクは居たんだけど……」
じゃあ、リクは……他の誰かなの?
「記憶といい格好といい、頭……大丈夫か?」
「大丈夫なわけない……」
……思い出した。
あいつは、リクじゃない。
リクは……あいつは、言ったんだ。
「“Alice”って…………格好?」
「やっぱ、精神年齢もお子ちゃまか?」
……カチンときた。
「こっちは真面目な話してるの! それなのに、お子ちゃまって何?」
「お前……無意識だったのか」
そう言うとハルクは吹き出して笑った。
「っはは!……一番上と下って、ボタン掛け間違えすぎだろ!」
「え……?」
自分で赤面しているのが分かる……
“子供だ”
パパの言葉が頭を過ぎる。
パパは、この事を言ったの?
「ま、ある意味……器用だな」
「なに、まじまじと見てるのよ! バカっ!!」
「あだぁっ!」
無意識に手が出てしまった……
私は生まれて初めて、ビンタをした。
私はハルクを追い出して、私服に着替える。
「……はぁ……」
溜め息しか出てこない……
「リク……」
写真を見てリクの名前を呟く……
昨日の朝までの何気ない日常はどこに行ってしまったのだろう……
「心にぽっかり穴が空いたって、この事を言うのかな……」
私は、服のボタンを穴に通す。
……心の透き間は、埋まらない。
.