その他短編
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射撃場で銃を構えていると、視界の端で彼がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
次第に歩幅を小さくし、慎重に私の背後に廻る彼。
まだだ。
そう堪えているとドンッと肩に大きな手が乗った。
『きゃあっ!?』
「ははっショスナト、集中してたな」
『隊長!』
「やあ」なんて爽やかにタオルを渡してくれる隊長。
彼はこのBSAAの隊長クリス・レッドフィールド。
「何かわい子ぶってんだ。最初から気付いてたクセに」
『ちょっとピアーズ!』
「なんだ、そうか」
『ち、違いますよ隊長!』
受け取ったタオルで汗を拭っていると隣のブースからピアーズが顔を覗かせた。
ピアーズは隊長と話しているといつもこうして邪魔をしてくる。
彼とはBSAAに配属する前からの長い付き合いなので、私が好かれようと必死なのがきっと面白いのだろう。
「隊長も練習ですか?」
「いや、2人に用があるんだ。あとで俺の所にきてくれないか?」
「分かりました」
『…わざわざ隊長が直々に私達を呼びに来てくれたんですか?』
「鍛錬の成果も見ようと思ってな。…ショスナト、狙撃の腕上がったか?」
くしゃりと大きな手で頭を撫でられる。
まるで子供にするみたいなそれに、他の男なら即制圧だが隊長には顔がにやけてしまう。
「じゃあまた後で」と言って出て行く隊長は後ろ姿までかっこいい。
「そんなに隊長は良い男かよ?」
背後からピアーズの呆れた声がため息と共に聞こえてきた。
自分のブースに戻り新しいマンターゲットに変えながら『あんたの数百倍ね』と透明な仕切り板越しに言ってやる。
「あっそ」
面白くなさそうな顔でイヤーマフをつけ直すピアーズはこちらを一切見ようもしない。
射撃の腕は良いかもしれないが、質問してきたやつの態度としては0点だ。
「ショスナト」
『…今私撃とうとしてたんだけど?なによ』
「勝負しないか?」
『…本気?』
一旦構えた銃を下ろしピアーズを見ると真剣な眼差しがこちらを見ていた。
「本気だ」と頷かれる。
射撃の腕に関しては私が上で、このマンターゲットのポイントだって一度だってピアーズに負けた事は無い。
『良いけど…私が買ったら昼食1週間ピアーズの奢りね』
「そんなんで良いのか。無欲なやつだな」
鼻で笑うピアーズは何故自信気なのか分からないが、何にせよこの状況でイカサマは出来ないだろう。
銃を構えトリガーに指を乗せる。
『…そういえばピアーズが勝ったらどうする?』
「俺か?」
隣から聞こえる発砲音。
ピアーズが先に撃った。
続いて私も指に力を込める。
「俺と付き合ってほしい。」
発砲音。
『……そういうのって反則だと思うけど』
「俺は本気だけど?」
確認するまでもなく、ターゲットに穴は開いていない。
ピアーズのジョークに見事に動揺した私の弾は壁を捕らえたらしい。
ピアーズを睨むが彼は既にターゲットへと銃を構えていた。
ピアーズとは長い付き合いだ。
彼が今本気なのだと、その顔で分かった。
『…腕上がった?』
「練習してっからな」
先程の真剣な顔と違い子供のような無邪気な笑顔を向けてくる。
彼が良い男だなんて私はよく知っている。
だけど私達は良い仲間になって。何でも話せる友になって。
そんな関係を壊すのは嫌だった。
「撃たないのか?」
『ピアーズが一発でも壁を撃ったら考える』
「ははっ」
あまりプレッシャーには感じていなそうに笑われる。
既にピアーズはほとんど中心に当てていた。
私があと全ての弾を同じく中心に当てても、彼が外さない限り勝機は無い。
目を瞑り祈る。
神様。隊長様。
ピアーズが何かの事故で的を外しますように。
「…まあ、お前の喜ぶ顔が見れるならそれでも良いかもな」
発砲音。
『……』
「あーあ、外しちまった」
『…わざとらしい。私そういうの嫌い。』
「神に祈ってた奴のセリフ?」
ターゲットに目を向ければ、少し離れた壁に穴が見えた。
「ほら」と子供に言うみたいに優しくピアーズが急かしてくる。
まだ私には勝機があるらしい。
『…ねぇ、一応確認なんだけど本気なの?』
「本当にショスナトの事が好きだ」
『あっそ』
銃を構え、トリガーを引く。
大きな銃撃音がして、綺麗なままのターゲットが少し揺れた。
『…何笑ってるの?』
「別に。可愛い彼女だなって見てただけ。」
『うるさい』
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20230821加筆