その他短編
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「おっっそーいィィィィ!!」
『うるさいな』
学校を出て少しの所で私を待っていた警察官、芥倫太郎。
彼の隣に並んで、私の家までの道を2人で歩き出した。
『部活とか試験で忙しいの。暇なストーカーと違って。』
「忙しいですぅー。ってか待ってあげてたポリスメン芥様にその態度?
もう少しさ、オッパイ揉ませるとか舐めさせるとか、誠意のある態度は…」
『市民に尽くせよクズ。右手折るぞ。』
「右手は僕の息子の次に大切だから駄目だ!!!」
『あーもーうるさい』
なんだと!?と怒りだす芥。
ーこの時はただ漠然と、こんな日々がずっと続くんだろうなぁなんて思ってた。
だけど現実は芥の妄想よりも奇抜で、とても非情で、醜いものだった。
『…ありがとう。助かったわ…』
「い、いえ…」
「しぬかと思った……」
突然現れた"魔法少女"とやらに追われて偶然モールにたどりついた私を、数人の高校生がなんとか救い出して匿ってくれた。
制服をよく見ると友達の通っている学校だったけど安否を確認する気にもなれない。
『此処にいる人で全員?』
「いや、向こうのフードコートにもいるよ。」
『そう…結構生き残ってるのね』
良かった、とほっと息を吐いた。
ーここなら安全。
しかしそう思ったのも束の間で、すぐにその"フードコートの住民達"は全滅した。
『なんなのよあれ…!!』
児上や夜華たちとはぐれてトイレに身を隠す。
よくある映画のワンシーンみたいだ。
だけど映画では大体トイレに逃げ込んだ奴は助からない。
悪いほうに働く頭に目を瞑った。
そして、銃声。
『ーっ!?』
近い。
慌ててトイレを飛び出して、声のする男子トイレに駆け込んだ。
「あ 蚊」
パン。
見覚えのある顔が、児上の横に並んで手を叩いた。
『……あくた…?』
まさか。
掠れた声に反応する楓と夜華。
心配した、なんて肩を抱いてくる2人に緊張が解けて涙が出た。
「…んんっ?……まさか、ショスナトちゃん!?」
「え?知り合い?」
「僕のショスナトちゃんだあぁぁあああい!!!!」
『人違いです』
キャッホイ!なんて抱きついて来ようとする芥の顔を裏拳で殴ると芥の首から変な音がした。
一瞬やり過ぎたか?なんて思ったけど、すぐにいつもの締まりのない顔をこっちに向けてくる芥にホッとした。
「相変わらずみたいで逆に安心だわ…」
「…ショスナトさん、こいつと知り合い?」
『残念ながら…』
「ショスナトさんかわいそう…」
「カワイソウってなんだ糞ギャルがァァァ!!!」
『るせーな糞ポリス』
「うっ、」と胸を押さえる芥。
鳩尾はたとえどんな変態であろうと例外なく平等に急所だ。
『化け物は?』
「倒しました。…コイツのお陰です」
フンッ!と胸を張る芥。
…変態だストーカーだとなんだかんだ言っても一応は警察官。
こうした混沌とした世界の中では、これほど頼れる人間はいないのかも。
「そんなことよりパイパイちゃん!」
ふと見ると、ハアハアと鼻息荒い芥が夜華に迫っていた。
いつものふやけた締まりのない顔。
『……』
「っぐふぉッ!!!?」
はあ、と息を吐いてその変態の延髄に足を振りおろした。
勢いよく手すりにぶつかって倒れる芥。
ピクピクと手が動いている。しぶとい。
「な、…何を…」
『いやあ…お前を見直した私が悪いのかも。屑は屑なのにね』
『ごめんね』と謝ると芥の手が私の足首を掴みかけた。
すんでの所で夜華が持っていたスタンガンを芥の頭に当てる。
「大丈夫?ショスナト」
『へいき。ありがとう。あと、芥がごめんね?』
「ショスナトが謝ることじゃないわ。こちらこそ助かった」
にこりと微笑む夜華。
かわいい。
「ひとまずここじゃなんだ。みんなで戻ろう」
「はい…」
横腹を押さえた蓮さんの言葉で皆ゾロゾロとトイレを後にする。
残される、手錠に繋がれた芥。
魘されているのか何か呟くその口元に顔を近づけると「パイパイちゃん…」なんて聞こえた。
『……私のストーカーじゃなかったのかよ』
「ぐっ!!」
がら空きの腹部に一発正拳を入れておいた。
どうも、なんとなく、気分が悪い。
『…私のもののくせに』
えい。とデコピンのおまけを付けると芥がまた小さく呻いた。
「う…ショスナトちゃ、ん…」
『何よ浮気者』
ーー世界は変わったけど、私はまだここに居たい。