その他短編
あなたの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
僕の名はアルフォンス・エルリック。
鋼の錬金術師であるエドワード・エルリックの弟。
僕たちは今元の身体に戻る旅をしている最中で、
そして今この檻からどうやって出るか考えなくてはならないこの現状で、
『―で、君がこのチビくんの弟アルフォンスくん?』
「どあれがミジンコドチビかあああああっ!!!!」
「あ、はい。僕が弟のアルフォンスです。すみません兄がうるさくて…」
『大丈夫。びっくりしたけど。じゃ、お兄さんと違って大きくて落ち着いててとっても優しい声のアルフォンス君。よろしくね。』
「よ、宜しくお願いします…?えーと、」
『あは、名前言ってなかった。ごめんね?私の名前は…』
彼女に恋をした。
◇
「「……」」
「…」
檻の中の兄さんと、その檻の外にいるキンブリーは何を言うでもなくただ睨み合っていた。
大体キンブリーがここに来た理由も分からない。
ただ立って、こっちを睨んでるだけ。
何しに来たのか兄さんは訊いたけどキンブリーは何も言わない。
本当に何しに来たんだろう?
するとこちらに向かってくる足音が聞こえる。
多分2人も気付いてる。
だけどお互い何も言わず、やっぱり睨み合っている。
近づく足音。誰だろう?
…彼女だったら良いな。
なんて、期待して違ったらその方がつらい。
『っじゃーんっ!!来たよー暇人たちー!』
バッと顔を覗かせるその人。それは、
「「ショスナト!」」
『…あら?』
僕とキンブリーが同時に彼女の名前を呼んだ。
驚いた表情を浮かべるショスナト。
あぁ、やっぱり好きだ。
空っぽの胸が痛い程高鳴った。
「……」
キンブリーが僕を睨んでくる。
そういえばキンブリーも彼女の名前を呼んでいた。
知り合いなのかな?
だとしても睨まれる筋合いは無い。
不意にショスナトが僕とキンブリーの間に入る。
ショスナトの背中ごしに、キンブリーが少し笑ったのが見えた。
『もしかして私が来るの待ち伏せてた?』
「おや、久しぶりの再会だというのに…挨拶もない?」
『…久しぶり。ゾルフ兄さん。』
ゾルフ兄さん。
ショスナトの声が、少し震えながらそう言った。
…兄さん?兄さんって…
「兄弟!!?」
「おや。ご存知なかったんですか。」
キンブリーが少し驚いた顔をして、ショスナトの腰を引き寄せた。
頭の血が引いていく。
やめろ、と喉まで出かけて必死に飲み込んだ。
『ちょ、兄さんっ』
「ショスナト・M・キンブリー…。
ショスナトは私の愛しい大切な妹ですよ。」
「はあっ!?」
驚いたのと怒りで声が出ない僕の隣で兄さんが声を上げた。
『ご、ごめんねっ隠すつもりは無かったのよ?!』
「おま、キンブリーの妹って…!」
唖然として口を押さえる兄さん。
だけど、それだと昨日初めて会った時ショスナトがファーストネームしか名乗らなかったのも納得できる。
キンブリーの兄弟だと僕達に知られたくなかったんだ。
「ショスナト。…やっと会えましたね」
『な、何よっ勝手に戦争行って勝手に捕まってたクセに!』
「貴女のことを考えない日はなかった。」
『~っ』
「わっ?」
キンブリーの腕から逃げたショスナトが格子越しに僕の腕に捕まる。
びっくりしたけど、ショスナトは今逃げてきた。
守らなくちゃ。
「…いつの間にそんなに仲良くなったんです?」
『兄さんには関係ない。
…私、ゾルフ兄さんなんかよりアルフォンス君の方が大好きだもの』
「えっ!?」
「ショスナト…」
ぎゅっと僕の腕を強く抱き締めてくるショスナト。
ショスナトが僕を好き?ショスナトが?僕を?
「私は誰よりもショスナトが好きですよ。」
『…』
ふんっとキンブリーから顔を逸らすショスナトを反対の腕で包む。
キンブリーが睨んできた。
「ここにショスナト、貴女がいると聞いてから私はずっと探していた。
なのに、貴女に避けられてばかりで会えなかった。」
『…だから何。』
「何年も何年も会いたくて声が聞きたくて堪らなかった貴女と、同じ地にいながら会えない私のこの胸の痛み。
…ショスナトには分かりませんか?」
『……』
ピクッと身体を震わせるショスナト。
もう帰れ、とキンブリーに言いたい。
だけど、言って良いのか分からない。
「…会いたいと思っていたのは私だけでしたか?」
『……っ~!』
「わっ」
バッと、僕の腕から飛び出していくショスナト。
どうして?
目線を上げたら、キンブリーに飛び付くショスナトの背中が見えた。
『…っゾルフ兄さんのばかぁ…!!』
「ショスナト…」
そのままキンブリーの腕の中で泣き出すショスナト。
隣にいた兄さんがやれやれ、とベッドに横になった。
「兄弟ゲンカなら余所でやれよな」
「…兄弟ゲンカ…」
2人は兄弟。
確かに、僕だって兄さんと離れ離れになれば寂しいし心細い。
きっとこの2人も同じで、何年かぶりの再会が嬉しいんだ。
そう思ったら、息苦しさが楽になった。
そうだよ。
別にキンブリーは兄だから、気にする事なんてない。
『会いたかった…!』
「私もですよ。」
「……」
ふと視線を感じてキンブリーを見たら目が合った。
鋭い眼光でじっと睨んでくる。
何故?…もしかしてさっきのショスナトの発言で?
あんたとショスナトは兄弟でしょ?
だけどさっきのキンブリーの発言。
「私は誰よりも貴女が好き」
これって、もしかして、いや、…もしかしなくたって、
____________
2020