1章
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レストランに着いてからは、まるで地獄の様だった。
「本当にここのパスタはとても美味しいですね。」
「そ、そうですかっ?ありがとう御座います!」
「いえ。素晴らしい料理を有り難う御座いました。」
「そんな…、キンブリー少佐にそう言って頂けるなんて…シェフにも伝えておきますね…!」
『…』
ゴクリ。
置かれたコーヒーを一気に飲み干した。
この店に着いてから続いている目の前の光景はまるで以前の俺とローザンヌの様で、俺を睨んでいたあの男達は正に今の俺だった。
笑顔で話すキンブリー。
真っ赤になって、今まで見た事無い様な嬉しそうな表情を浮かべるローザンヌ。
いつも食べている海鮮パスタの味なんて全く分からなかった。
「あ、コーヒーお入れしますねっ」
『…すみません少佐。仕事が残っていますので、先に失礼させて頂きます。』
空になったコーヒーカップをただ持っていただけの俺には気付かず、空にもなってないキンブリーのカップにコーヒーを注ごうとするローザンヌ。
嫌気がさし、立ち上がると2人共少し驚いた顔をした。
「ショスナト、もう行っちゃうの?」
『あぁ。悪い。…また来る。』
残念といった声だが表情はそれ程ではなく、反対にキンブリーと2人で話せる事に対して喜んでいる様に見えた。
これ以上は耐えられない。
出来るだけ2人を見ない様にして、キンブリーに再度謝罪し店を出た。
『…きっつー…』
店を出て、しゃがみ込む。
他人の目なんて知るか。
「何がです?」
『や、見てらんねぇよ…
…んっ?』
バッと顔を上げば隣に立つ白い男。否、キンブリー。
驚いていると続けて店から出てくるローザンヌ。
2人を見たくなくて出た筈なのに、何故またこの2人を見なくてはならないのか。
「ショスナト?どうしたのっ?」
気分でも悪いの?としゃがんで顔を覗き込んでこようとするローザンヌから顔を背け、立ち上がる。
『何でもないよ。
…仕事だりーなぁって思っただけー。』
「でも顔色が「戻りましょうか。」
『え』
心配そうなローザンヌに笑って誤魔化しているとキンブリーに腕を引かれる。
『だ、大丈夫です少佐!あとは1人で出来ますし、少佐は休まれていて下さい!』
「辛そうな顔をした貴方を1人で行かせる訳にはいきません。」
『ですが、わっ』
ぐいっと腕を引かれ、思わず転けそうになる。
それを支えてくれたのはローザンヌ。
キンブリーの俺の腕を掴む力が強くなる。
「大丈夫なの?ショスナト…」
『あ、あぁ…ごめんな…』
「ううん。無理しないでね?」
『ありが「後は良いですよ。」
俺の言葉を遮りローザンヌに笑いかけるキンブリー。
「わざわざ有り難う御座います。もう結構ですので仕事に戻られて下さい。」
『、』
少しだけ、ローザンヌが悲しそうな顔をした。
「…わか、りました。…また来て下さいねっ」
『っ』
パッといつもの笑顔を作り、店へと戻って行くローザンヌ。
手を伸ばそうとしても、それは俺の役目ではなく気休めにもならないとただ拳を固めた。
「では、行きましょう。」
『…はい』
何事も無かったかの様に歩き出すキンブリー。
この男は、どうしてローザンヌにあんな表情をさせて平気でいられるのだろう。
ふつふつと沸いてくる言いようのない苛立ちに、俺はただ何も出来ずにレストランへ向かった時と同じにキンブリーの後を付いて行った。