1章
あなたの名前
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『俺は…悪くねぇのに…』
力が入り、右手に持ったペンがミシッと鳴った。
先日、まあ何というか俗に言う失恋をしてしまい自暴自棄になった俺は、武道場に行き文字暴れまわってしまった。
怯えて逃げる後輩を捕まえては投げるキャッチ&リリース。
型の練習用の人形をリサイクルがしやすい様に徹底的に破壊。
最近鈍っていた後輩達の強制実技指導。
どれも地球や軍に優しいことだし何より俺自身とてもスッキリした気持ちになれたので、そこそこに感謝されていると考えていた。
なのに。
「貴方以外はどなたも悪くありませんよ」
『…ういっす』
俺は目の前の終わらない始末書に突っ伏した。
『…申し訳ありません少佐…』
「構いませんよ」
机を挟んで目の前に椅子を置き、外の景色へと視線を送るキンブリー。
キンブリーは本来今日は休みなのに、俺の今回の件で「監督不届き」と言われ呼び出されたのだ。
で、二人で仲良く始末書。
因みにキンブリーはとっくに終わらせている。
『…』
はあ、と何度目かも知れぬ溜め息が零れる。
幸せが逃げるっていうより、不幸を呼ぶ気がする。
でなくては今最も一緒に居たくない、俺が暴走した原因である男と、こうして仲良く休日出勤させられる筈がない。
あ、言い忘れてたが俺も本来休みだ。
引き篭もっていた所を呼び出されて今に至る。
「…貴方らしくありませんね。」
『え?』
「周りに当たり散らすなんて。」
顔を上げるといつの間にかこちらを見ていたキンブリーと目が合う。
驚いた。
思わず息を飲む。
『…そう、ですね…?』
そして思わず疑問形になってしまった。
「えぇ。貴方はいつも周りが見えなくなる程他人想いで、自分より他者を第一に考えるとても甘い人間ですからね。」
『…えーと、それ褒めてます?』
ええ、もちろん。と頷くキンブリー。
どう考えたって馬鹿にされている気しかしない。
いや、これは新手の嫌がらせ…?
休日出勤させられた恨みが今?
なんて、そんな事を考えているとグゥ、と音が聞こえた。
「…」
『…あら。』
はあ、と目の前でキンブリーがわざとらしく溜め息をつく。
どうやら俺の腹が鳴った様だ。
そういえばお腹が減っている。
ちょっと恥ずかしい。
と、不意に立ち上がるキンブリー。
いつもの白いコートを羽織り白いハットを被って、ぼうっとしていた俺を向き返る。
「どうしました?」
『へ?』
見ていた事がまずかったのか、と焦る。
しかしそうではなかった様でキンブリーに部屋の電気を消された。
「行きますよ」
『…え、俺、じゃない私もですかっ?』
けどまだ始末書が、と続ける俺を置いて出て行く。
いいからついて来いということなのか。
なんという身勝手。
待ってください、と身支度をして廊下に出ると廊下の壁に寄りかかったキンブリーがいた。
『…』
「…休日出勤させた上待たせるなんて、貴方くらいのものでしょうね。」
『す、すみません!!』
やっぱそこ怒ってるか、と内心焦りながら、どこに行くとも知れぬ上司の後に続いた。