番外編
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ロイ・マスタングはじっと壁を見ていた。
「…大佐あれどうしたんすか?」
「あぁ、ただいじけてるだけだから平気よ」
コソコソ、と聞いてくるハボックにホークアイは答えた。
その声が届いたのか、マスタングはわかりやすく頭を抱える。
「もしかして昨日の件ですか?」
ハボックが思い出したように言うとマスタングが睨んだ。
「いや、しょうがないですって。雨でしたし。
クライスラー大佐のお陰で無事解決したんだし、良かったじゃないですか」
「良くない。私がまるで無能みたいに言うな」
苛立ちを隠さず言うマスタングに思わず笑う。
昨日。
ショスナトとマスタングは以前捕まえたテロリスト集団の残党に襲撃された。
天気は雨。
銃も持たず何も出来ないマスタングにかわり、ショスナトは1人で全員を素手でなぎ倒した。
全員無事に憲兵へと引渡されたが、目撃者が多かった事と日頃マスタングへ恨みをもった男達によってその一部始終はあっという間に広まっていた。
「お前はショスナト狂いだからそれはそれは嬉しいだろうな。
直属の上司が如何に無能であると噂が広まろうと。」
「だ、誰がクライスラー大佐狂いですか!」
「お前以外おらん。」
カアっと顔が赤くなるハボックをよそに深い息を吐きまた俯くマスタング。
「というかあいつのあの強さはなんなんだ。あいつ昨日私より相当飲んでたんだぞ」
「やー酒飲んでても有事にはビシッと決めるクライスラー大佐…オレも見たかったっす」
「黙れ裏切り者」
「でも実際クライスラー大佐いて良かったじゃないですか。オレらじゃどうにもならないし。
クライスラー大佐の実力は中央の人間なら誰でも知ってますもん。」
「……」
嬉しそうに話すハボックを睨むマスタング。
が、ハボックは気づいた様子も無く目尻を緩ませている。
確かに、普段からショスナトの強さは有名だった。
体格も良く武術に長けたショスナト・クライスラー。
いくら強いとはいえ晴れの日限定のマスタングとは違う。
「…晴れてたら私が一瞬で終わらせていた」
「そういえば大佐、きちんとクライスラー大佐にお礼は言いました?」
「なぜ私が」
「えっ本気ですか!」
「大佐…」
不意にホークアイから投げられた子供にするような問いにぶっきらぼうに答えるマスタング。
2人は驚いた顔を見合わせた。
「…いくら旧知の仲とはいえそれはどうかと思いますよ」
「クライスラー大佐…かわいそ…」
「うるさいぞハボック。何がかわいそうだ。あいつ怪我した私の心配もロクにせずさっさと帰ってったぞ」
「怪我したのは自業自得でしょ。
聞いてますよ、クライスラー大佐の後ろでふらついてコケてたって」
「……」
あまりに全てが筒抜けでマスタングは返す言葉が出てこなかった。
自分の部署なのに味方がいない。
ちらりとホークアイに救いを求めるが溜息をつかれて目を逸らされた。
「…っわかった、わかったよ!礼を言えば良いんだな!?」
半ばヤケになり、バンっと机を叩きつけながらマスタングが立ち上がる。
「何故私が…」とぼやきながら軍服の襟を正すマスタングの前でハボックが立ち上がって同じ様に襟を正していた。
「…ハボック、お前何してるんだ?」
「大佐の所行くんすよね?また襲われるかも知れません。護衛します。」
「今日は晴れてるからお前もよく燃えるだろうな」
ササッとホークアイの後ろに隠れるハボックの顔は青い。
マスタングについて行けばショスナトと会える。その魂胆が見え見えで、マスタングだけでなくホークアイもため息をついた。
「…まぁ、何があるか分かりませんし。怪我の事もあります。必要かと。」
「だったら君がいるだろう。私の補佐官は君だぞ」
「生憎書類が山のように溜まってるんです。大佐が残業して下さるなら構わ「よしハボック!行くぞ!」
頬を押さえハア、と大袈裟にため息をついて見せるホークアイから身体を背けハボックを引っ張ってショスナトの元へと急ぐ。
廊下を暫く歩いてから手を離せばハボックはよれた軍服を正しながら付いてくる。
「…ハボック、お前異動の要請なんて来たらその日の内に飛んで行くんだろうな」
「大佐…野郎の嫉妬は醜いっすよ」
「黙れ裏切り者」
冗談とはいえ否定しないハボックにマスタングは呆れながら、微かに痛む昨日の怪我を撫でた。
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20250718添削
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