2章
あなたの名前
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とにかく暇で仕方のなかったあまりにも長い自宅謹慎の日々。
毎日意味なんてない形ばかりの報告書を書き、時折精神状態の確認にかかる電話の形式ばった質問に答えるだけの日々。
1日が長く、時間が過ぎるのがあまりにも遅く心は限界だった。
早く謹慎が解けろと毎日願った。
だが、だからといってこんな形で叶うなんて願う訳なかった。
◇
久しぶりの職場。感傷に浸る間もなく、廊下を走る。
時折すれ違うのは皆強ばった表情の軍人達。
いつもと違う。何もかもが、本当に何もかも違った。
資料室にたどり着き、その横にある受付台に顔を突き出した。
突然現れた俺の姿に相手は驚き肩を震わせたが、すぐにホッとしたように息をついた。
「ショスナト…」
『…イリーナ…』
息が上がって額を汗が伝う。
目の前で青ざめた顔をしているのはイリーナ。よく見ると目元が少し赤くなっている。
いつもこの場所には2人の軍人が配備されているのだが、いくら見回しても周りに人は居ない。
『アリシャは?』
イリーナに視線を戻し、そう訊くとイリーナは震えながら首を横に振った。
居ないのだ。彼女はもう。
『……』
「ショスナト…私…っ」
『イリーナ……』
腕に縋りついて泣きじゃくるイリーナ。
何か言おうにもかける言葉が見つからない。
イリーナの隣、誰もおらずぽっかりと空いた席に目を向けると彼女の笑い声が聞こえた気がした。
褐色の肌に赤い目をした優しい彼女。アリシャ。
もう、君の笑顔を見る事も出来ない。
◇
「おや?」
イリーナを宥め、執務室に行くとキンブリーが丁度席を立ったところだった。
『少佐…』
「お久しぶりです。まだ復帰まで3日あったと思いますが?」
『本部からの命令で謹慎解除です』
語気が少し荒くなってしまい内心毒づく。
キンブリーに八つ当たりをしても何も解決しない。
だがこちらの内心を知ってか知らずかキンブリーはどこか楽しそうに笑みを浮かべた。
まとわりつく汗を拭う。
同僚達の姿が見当たらない。
既に始まっているのだ。
「良かったですね。ショスナト」
『…何がです?』
「楽しい仕事を人に取られずに済んだじゃないですか」
『っ』
カッと頭に血が上るのを感じた。
唇を噛み締め、拳にもとにかく力を込めて耐えた。
そうしなければキンブリーに掴み掛かりそうだった。
キンブリーが笑いながら、近づいてくる。
白くて細い綺麗な手が俺の唇に伸びた。
「そんなに力を入れては怪我をしますよ」
『…少佐に怪我をさせるよりはマシなので』
首を振り手を払うとキンブリーは少し驚きそしてそのまま俺の横を過ぎた。
「…せっかく貴方と喜びを分かち合えると思ってたんですが、残念です」
俺の背後で至極残念そうにため息をつく。
その言葉と声色にゾッとする。彼は明らかに本気で言っていた。
振り向くと予想通り、いつもの笑みを携えた悪魔と目が合った。
『…対象の中には仲間もいるんですよ』
「過去の話です。彼等は処分の対象でしかない。」
『俺達と何も変わらない仲間なんですよ!?』
声を荒らげる俺に少しだけ顔を歪めたキンブリーは億劫そうに首を振った。
「いいえ、彼等の肌は褐色で目は赤い。私達とは違う」
『肌と目の色が違う事は罪じゃない、こんなの間違ってる!』
「肌と目が違えば充分でしょう?」
『何を…!!』
1歩足が前に出て、拳に力が入る。
だが飛び掛かろうと身体が動くのを何故か必死に止める理性的な自分がいて、そのまま動けない。
その間に話は終わったとばかりに部屋を出て行くキンブリー。
睨んでも閉まっていく扉の隙間からキンブリーの背中が見えるだけで、その内にバタンと扉が閉まった。
『…ちくしょう……』
近くの壁に寄りかかり、両手で顔を覆った。
俺には、何も出来ない。
ー大総統令三○六六号
イシュヴァール殲滅戦ー
ある穏やかな昼下がりに、
それは嵐のように始まった。
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添削20250922
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