1章
あなたの名前
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『全っ然わからん』
ポイッと、持っていた本を後ろに投げかけて慌てて止めた。
『っと。』
危ない。
自分の本だったらこのまま投げ捨ててしまっても構わなかった。
だけどこれはロイがいつか置き忘れて行った錬金術の専門書。
ポイッと捨てて良いもんじゃない。だって弁償とか、専門書って高いし。嫌だ。弁償は嫌だ。
ポンポン、と表紙を払い時計を見る。
多分、あと20分くらい。
時間潰しにと読み始めてから案外時間が経っていた。
「…おい、インターホン壊れてるぞ。」
『あーそう。』
インターホンの修理で時間を潰す。
それも良いのかも知れない。
だけど面倒だ。
恐らく時間が掛かるし、まず必要な道具がどこにあるのかも分からない。
出来れば業者を頼むか誰かにやってもらいたい。
そう、例えば今やってきたロイ……………
…………………ロイ?
『うおおおロイっ!!?てめぇどっから現れた!!っでぇ!?』
「…玄関からだ。」
いきなり現れたロイに驚き勢い余って一人掛けソファと共に倒れてしまった。
重みのあるソファと重みがある上かっこいい俺が床に倒れたことで大きな音と埃が立つ。
急いで起き上がるとロイが少し(というか全力で)呆れた顔をして立っていた。
『何、インターホン壊れてたからって扉破壊して入ってきた訳か錬金術師よ。』
「鍵を掛けずに寛いでいたどこかの少尉殿のお陰で扉は無事ですよ」
『…あら』
どうやら鍵を掛け忘れていた様だ。
え、いつからだ?怖い。
寛いでた少尉殴りたい。
チクショウ俺だ。
「不用心すぎるぞ。俺が入っても気付かないなんて。」
ロイが正面のソファに腰掛ける。
ガタガタと音を立てながらソファを起こし、俺も無事に腰掛けた。
『悪い。けどノックくらいしろよな。』
「…したぞ。
っていうか5分程お前が出て来るのを待ってたんだぞ。」
『…あら。』
ジロッと睨んでくるロイ。
これは完璧に俺が悪い感じだ。
まぁ確かに俺が悪いのだけど、このまま叱られるのも癪なので何となくウインクして投げキスしてみた。
が、失敗だった。ロイが発火布を取り出した。
メーデーメーデー!冗談が通じない!
「……来る時間は言っていただろう。気が緩みすぎじゃないのか?」
『今は中々極限状態だったが』
俺が怯えると満足したのか手袋をポケットに入れはじめるロイ。
少しだが汗をかいた。
「読んでたのか?」
『ん?あぁ…』
ふとロイの視線が俺とロイの間にあるテーブルの上に向けられる。
そこには一冊の本。
先ほど少し読んでいた錬金術の専門書だ。
『とても興味深かったよ』
「へえ?」
ニヤリと意地悪く笑うロイ。
本の内容を俺は全くといって良い程に理解出来なかった。
それだけ一般向けではない難解な専門書なのだと思う。
それを『興味深かった』なんて、ロイとしては俺が見栄を張った様に映ったのだろう。
「具体的に、どの辺りにショスナトは興味をもったのか話してみてくれないか?」
『そうだなー……この辺?』
「ん?…なっ!?」
ぺらりと胸ポケットからメモを取り出しロイの目の前に垂らす。
途端に目を見開いて固まるロイは随分驚いたようで、やはり興味深かった。
『えーと、無理はしないでくださいね。ですってよロイさん。』
「……」
メモに書かれた文章を読み上げる。
我ながら性格の悪いことだ。
最近引きこもっててストレス溜まってんだなー俺。
発散は大事。これは仕方のない事なのだ。
「どこにあったんだ、それは」
『本に挟んであった。』
「…そうだよ挟んだ…」
ガクッとうなだれるロイ。
もしかすると元カノからの手紙だったのか。
書体はとても綺麗で、そして女の字なのは明らか。
大事に取っていたのだろう。
その紙はぺたんこで弱っていた。
『…元カノからの物取っとくタイプだったの。お前。』
「ちがう。それは師匠の…お嬢さんの書いたものだ。」
『お嬢さん?』
ロイの錬金術の師匠は変わり者だった。それは以前聞いたことがある。
だが娘がいたなんてのは初耳だ。
「お前とヒューズの奴に言えば茶化してくるか彼女に会いたがるから、言わなかった。」
『…お前俺をそこらの思春期発情期の男子と同じに見てない?
まぁヒューズは万年春頭だけどさ。俺は紳士だし…』
「金髪ショートヘアでスタイル良し顔良し性格良し気遣いが出来る才色兼備。」
『紹介しろ。直ちに。』
ほら、とロイは深く溜め息をつきながら零した。
『冗談だろジョーダンっ』
「冗談に聞こえない。」
『お前…ヒューズといいお前といい、失礼だなー』
前にヒューズが来た時と同じ展開じゃないか。
冗談の通じない真面目な奴らめ。
はあ、と溜め息をついてみせるとロイが顔を上げた。
「ヒューズ?」
なんだそれ、とでも言いたげに少し険しくした顔を傾げてくる。
童顔なせいか、可愛くないとは言い難い。俺が女なら多分ときめいてた。本当にやめてほしい。
ついポロッと前のヒューズとのやり取りを話しそうになったが待てと考える。
「ロイには言うな」ヒューズが言っていた。
いずれ自分から言うと言っていたのだ。
ここでバラすのは良くない。
『…あー、前な、あいつ俺んち来た時お前の事脳みそ下半身って言ってたぞ。』
「なんだそれは?」
『知らん。』
は?とまた首を傾げてくる。だからやめて。可愛くない事もないんだから。
とりあえずは悪口だと理解した様で「あのオヤジめ…」とロイが溜め息をついた。
『お前ら仲良いな。』
「ただ同期なだけだ。」
『ただ同期って…』
同期がどんだけいると思ってんだ。
俺から見てロイが同期でこんなに仲良くやってるのはヒューズしか思い当たらない。
ロイは少し気難しい所がある。その上頭脳や容姿も揃っては、同期の男には嫌われるタイプNo.1だ。
『…もうヒューズと付き合っちゃえば?』
「ショスナトはそんなに燃やされたかったのか」
『冗談だ!俺は燃えないゴミだぞ!』
「安心しろ。人は皆等しく燃える」
『やめて!!』
目の前で×を作りロイに向ける。
昔これで『バリアー!』って言って…って、これ前にも言った気がする。デジャヴだ。
手袋をしっかりとはめたロイが「冗談だよ」と笑うが俺は全く笑えない。
こいつは偶にこういう笑えない冗談を言ってくる。
天才ってやつはやっぱりどこかおかしいんだろう。
そこはキンブリーと似てる。
「冗談が通じないなんて、失礼な奴だ。」
ニヤリと悪い顔で笑われる。
どうやら仕返しされたらしい。
可愛い童顔にまるっきり騙された。
多分師匠のお嬢さんとやらもこの甘いマスクに騙されてるんだろう。中身は底が見えない程真っ黒なのに。
『……』
「…お前今失礼なこと考えてるだろ」
『なんで分かんだよ!』
___________
ロイの本にあったメモ説明。
ロイが師匠の所で徹夜で勉強して
うたた寝してた時に、リザさんが
コーヒーいれてくれてその時
ガンバレ受験生!みたいなノリで
書いたものっていう…。ね。
20250720添削
