1章
あなたの名前
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「悪い悪い!」
『思ってないだろ。』
「んな怒るなよーちょっと遅れただけだろ?」
『そうだな。ちょっと2時間程遅れただけだな。』
悪ィ、と顔の前で手を合わせる男、マース・ヒューズ。
その顔はヘラヘラと笑っていて本当に悪気があるとは到底思えない。
それでもこれ以上玄関先で文句を言ったところで近隣住民の俺への印象が悪くなるだけなので仕方なく部屋へ通した。
「どーせ引きこもって暇してたんだろ?2時間くらい遅れたからってカリカリすんなよ」
『お前…これ俺だから許してんだぞ?普通キレるし口聞かないし家に入れないぞ?』
「いやいや、お前相手じゃなきゃこんな事しねーよ」
『んな特別待遇いらねぇ』
ハハハと高らかに笑うヒューズはまるで自分の家のようにソファで寛ぎ出す。
流石に言動が失礼過ぎるしこんなの普通俺じゃなきゃ傷付いてる。
確かに暇を持て余し、休みだというヒューズを無理に誘ったのは俺だ。
だからと言って2時間も約束の時間を遅れるなんて。
『もう来ないかと思ったよ』
そばに置いた煙草に手を伸ばし火を点ける。
ヒューズのマヌケ面に煙を吹きかけると嫌そうに手で払われた。
「それも考えたけど後が怖いからやめた。」
『あのな…俺は事故にでもあったんじゃねえかって心配もしたんだぞ』
「まじ?」
そーだよ、と驚いた顔のヒューズに向かってもう一度煙を吐いた。
今度は吸い込んだらしくゲホゲホと咳き込むヒューズ。ざまみろ。
「なんだよ、俺の事大好きじゃん。」
『今日来なかったら事故に遭うよりも酷い目に合わせてたけどな』
「…ショスナト、お前よく時間に厳し過ぎるって言われない?あと否定しないのな。カワイイ奴だなー!」
『お前が適当すぎんの!』
唇を尖らせ顔を近付けてくるヒューズの顔面を抑える。
気持ち悪い。やっぱり家に上げなきゃ良かった。
呼んだの俺だけど。
「安心しろ。お前にだけだ。」
『だからそんな特別いらねぇんだわ』
「オイオイ、んな嬉しそうにすんな」
『してねぇよ。この顔がお前にはどう見えてんだ?』
楽しそうに笑い出すヒューズ。
ヒューズの笑い方はどうも釣られてしまう。
肩を叩くと叩き返され、2人で笑った。
『ーで、どんな人?』
冷えてしまったコーヒーを飲み干し、テーブルにカップを置いてヒューズを見る。
不思議そうな表情をヒューズは浮かべていた。
『今日遅れたのって彼女といたからだろ?』
「は!?」
『違った?』
「い、いや、違わねえけどよ」
目を見開いて固まったと思ったら慌て出す。
隠しきれていると思っていたらしいが、こと女性関係について俺に隠せると思う方がおかしい。
息をつき、少し落ち着いたヒューズが顔を寄せて小さな声で話してきた。
「…なんで分かった?」
『百戦錬磨のショスナト様を侮るなかれ』
「だからなんでだって」
『…香水。』
あー…と納得したのか口を開けたままソファに寄りかかるヒューズ。
そもそも二人きりなのだから、秘密話をする様にコソコソと話す必要はない。
『さっき匂ったから。女物のだしそうかなって。』
「…お前って凄いな」
『ありがとう』
感心した様に頷かれる。
笑いかけるとヒューズがコーヒーカップに手を伸ばしながら唸った。
「本当はまだお前らには話す気なかったんだ。」
『お前ら?』
「ロイ。」
『あぁ』
ヒューズは自嘲的に笑うとコーヒーを一口飲み、俺を指差した。
「俺の大切な彼女にツバつけねぇとは限らねぇからな」
『はあ?』
わざとらしく低い声で言われる言葉に驚いて笑った。
『しないよ。友達の彼女横取りなんて俺はしない』
「いーやっ!信用ならねぇ!」
俺は、じゃなくて俺らは、だったか。
ロイも流石にヒューズの彼女に手を出そうなんて考えないだろう。
なんて考えているとヒューズにクッションを投げられた。
『ぶ、なにすんだ』
不意をつかれ顔面にヒットしたクッション。
それをヒューズの顔目掛けて投げ返すと簡単にキャッチされた。
「俺、今回はマジなんだよ。彼女と幸せになりてぇ。」
『良いじゃねーか。』
そのままクッションを抱え込むヒューズ。
声が籠もって聞き取りづらいが、その声は確かに真剣だった。
「だから、お前らにはまだ会わせたくない」
『………悪い。話が見えん。』
バッと顔を上げ真剣な顔で見てくるヒューズ。
何が言いたいのか分からない。
向こうだって友達に紹介されたら安心するはずだし、俺だって紹介されたい。
降参だと手を上げた。
「彼女、まじで最高なんだ。話してて楽しいし落ち着くし、その上美人だし可愛いし料理までうまい。この世で彼女に勝る女なんていない。
そんな彼女にお前らなんか会わせてみろ。どうなる。」
『…何ちゃんっていうの?』
「それが嫌だっつってんだろ脳みそ下半身!」
口元に手を当て真剣な顔で言うとまたクッションが俺の顔に帰ってきた。
ヒューズは涙目だ。
痛いのは俺なのに。
というか脳みそ下半身ってなんだろうか?
なんかよく分かんないけど傷つく。
『冗談だよ。』
「笑えねぇよ馬鹿やろう。」
『信用ねーなあー』
苦笑しながら頭を掻いていると疑いの目を向けていたヒューズがあ、と口を開いた。
「おい、ロイには言うなよ。」
『は?脳みそ下半身?』
「ちがう!」
彼女の事だよ、とまたひそひそ話の様に囁いてくるヒューズ。
そうまでして隠したいものかと笑いが出た。
『お前さ、自信もてよ。
どれほど俺とロイが格好良くて強くて優しい紳士でも、それに簡単に引っ掛かる様な彼女な訳?』
「…待て。それはつっこんで欲しいのか?」
『そうだな、ロイは俺程ではないな。』
可哀想なものを見る目。
それが一体どういうものかたった今後輩であるヒューズに教えられた。
軽く傷付いたがこれも俺が良い男だから仕方の無いことだ。
『まぁ俺に妬くのはいいとして』
「妬いてねぇ引いてんだ」
『妬くのはいいとして。ロイにはいつか自分から話せよ?』
ん?とヒューズの顔を覗くと少し驚いた後、笑われた。
バシバシと腕を叩かれる。
「分かってる。ダチに奥さん紹介しねぇ奴がいるかよ!」
『あぁ。結婚式呼ぶから来いよな』
「お前じゃねぇよ俺のだ!彼女は!!」
『いでぇ!』
腕を叩いていた手が頭を拳で殴ってきた。
ひどい。幸せにするのに。
「だーもう絶対お前には会わせねぇ!絶っ対会わせねぇ!」
『なんでだよー会わせてよー』
「うるせぇ脳みそ下半身!!!」
だからそれはどういう悪口なんだよ。
つっこみたかったが、また頭に振り落とされてきた拳を避けたり飛んでくるクッションを受け止めることに必死でそれは叶わなかった。
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グレイシアさんって絶対モテる
20250719添削
