1章
あなたの名前
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フランチェが死んでから2日経った。
キンブリーを殴った俺は2週間の謹慎処分を言い渡されている。
上官を殴ったっていうのに、たった2週間の謹慎。
キンブリーが何か手を回したからなのか、それとも俺がクライスラー家の人間だから上が配慮したのか。
まぁどちらであっても構いはしない。
俺は無力だ。
『…?』
ビーとインターホンの音が響く。
誰だろうと考える反面、彼だと思う自分がいる。
触れていたくて膝に置いた2着のコートを見て、彼ならば何と言うのだろう。
『…だと思った』
「おや。起きていましたか」
『起きてなきゃ出ませんよ』
「出なければ勝手に入っていただけの事です。」
不法侵入ですけど。と言いかけて止めた。
どうせ「出ない貴方が悪いんです」だかなんだか言うに違いない。
謹慎中の身でありながら思わずいつも通りに話し始めてしまった自分に内心悪態をつきながら以前と同じ部屋にキンブリーを通す。
同じ部屋な筈なのに、今日は何故かとても静かに感じる。
『…今って昼休憩中ですか?』
コーヒーを淹れキンブリーの前に置いた。
時計の針は12時をとっくに過ぎている。
「えぇ」
『……すみません』
「何がです?」
普段通りのキンブリーは気を使ってくれているのかも知れない。
顔も見れないまま、ソファに腰掛け2着のコートをクッションの下に隠した。
『俺が、…休んでるので…』
「おや?そちらの件ですか。私はてっきり…」
俺をじっと見てくるキンブリー。
ちらりと視線を向けると白い肌に赤い痣がよく目立っていた。
『…申し訳ありません』
何に耐えてるのか自分でも分からないが、耐えきれず拳を固めた。
不甲斐ない。
顔もまともに見れない。
目を逸らす資格は俺に無いのに。
「…冗談です。こんなもの、気にしていませんよ」
キンブリーが笑うのが聞こえる。
多分、本当に気にしていないんだろう。
だが気にしていようといなかろうと、到底許される事ではない。
「貴方はただ彼を助けようとしただけ。我が身を挺してまで。そうでしょう?」
『っ俺は、助けられなかったんですよ!?ただ少佐を殴って、…あいつを…失って…』
「…結果はそうですね」
『そうです。俺は……皆を危険に晒して、自分の職務を放って…倒れてただけです…身勝手な行為だ、最低です』
何も救えなかった。判断を誤り、上官までも傷付けた。
それが全て。
キンブリーの手が俺の膝に置かれ身体が跳ねた。
その手が随分温かくて、初めて身体が冷えきっている事に気付いた。
顔を上げれば真剣な顔をしたキンブリーと目が合う。
「職務ではなく、私が貴方を失いたくなかったから止めたんです。ただ貴方を守りたかった。
…それは身勝手で最低な行為ですか?」
『それは…』
「ショスナト」
答えられず唇が震える俺に呆れたのか立ち上がるキンブリーは俺の隣に座った。
肩が当たり、優しい香りがする。
『はい』
「誰かを、何かを守りたいと思っているのは貴方だけではないんです」
俺の腹の中も全て見通すような真っ直ぐな目でキンブリーが俺を見る。
とても真剣なその表情は少し怒っている様にも見えた。
それはそうだ。
皆何か守りたいものがある。
分かってる。分かってた筈。
なのに両親やフランチェ、沢山の仲間達の顔が浮かんできて、胸が痛んだ。
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2024/03/18添削