1章
あなたの名前
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目を覚ますと、憲兵と見覚えのない軍人が辺りに散らばっていた。
どうやら事件は解決したらしい。
大事な時に気を失っていた、と後頭部をさすった。
ズキズキと痛む頭。
それを押さえながら立ち上がる。
先ほどは阻まれて辿り着く事が出来なかったフランチェの元へ足を進めた。
『…そうか』
見下ろした場所には既に運ばれていったのかフランチェはいなかった。
立っているのが怠くてその場に座り込む。
目の前にはただ銃撃の跡と、それに溜まった雨水だけしか無い。
フランチェが居た証は、何も無かった。
制服越しに伝わってくる石畳の温度。
確実に体温を奪われていくところを見ると、フランチェの温もりもここには無いらしい。
「クライスラー少尉」
いつも馬鹿みたいにデカい声で俺を呼んだ。
俺が名前を呼べば嬉しそうに駆け寄ってきた。
身体が小さいのに態度は大きくて、生意気で負けず嫌いで弟みたいで。
『…フランチェ…』
仲間を大切にしろと彼に教えてきたのは俺だ。
皆を救う為のあの行動は、間違いなく俺のせい。
あいつは馬鹿だ。
あいつだって、この俺の大切な仲間だったのに。
俺は何も守れない。
父さんも母さんも、フランチェも。
どくどくと脈打つように身体を巡る自分への怒りで爆発しそうで、石畳を殴った。
赤色が流れ、自分への怒りと憎しみが雨に溶けていく。
ただそれを眺めていたら、ふわりと優しい香がした。
懐かしい、その香。
それと同時に心地良い温もりが身体を包んだ。
「風邪を引きますよ」
いつか言ったその言葉を懐かしい声が告げる。
目元が焼ける様に熱い。
その熱が頬を伝って落ちていく。
冷たい雨と溶けて混ざり、どこまでが涙だったのか分からない。
以前も経験があった。
こんな雨の日だった。
凍るほどに身体が冷え、背中にかけられたコートの温もりに涙が止まらなかった。
溢れる涙を止める方法が分からず、膝をつき泣きじゃくっていたあの時の自分。
あの時は顔を上げると、父のとても立派な墓があった。
だが今は顔を上げると、あの時の軍人が立っていた。
今なら分かる。彼が誰であるか。
『…キンブリー少佐』
「酷い顔ですね。」
口を開けると、涙と鼻水と雨が全部まざって口の中に入ってきた。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。
こんなにも近くにいたのに。
こんなにも優しい香がしていたのに。
背中にかけられたキンブリーのコートの端を握りしめて顔をうずめた。
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20230910添削