1章
あなたの名前
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『少佐、お待たせして申し訳ありませんっ』
リビングに入るとキンブリーがソファに座りこちらを睨んできた。
「戻ってこないかと思いましたよ」
『すみません…』
わざとらしく大きく溜め息をつかれる。
キンブリーの横にあるソファに腰掛け、喉を癒そうとコーヒーを口に含むも既に冷たくなっていた。
『少佐、寒くないですか?』
窓を開けていた為室内は少し冷える。
ただ座っていたキンブリーは特に冷えているだろう。
だがキンブリーは首を横に振った後、少し意地悪く微笑んだ。
「寒いと言ったら貴方が暖めてくれるんですか?」
『…俺では役不足です。掛け物をお持ちしますよ』
「必要ありません。」
思った反応と違ったらしく、キンブリーはつまらなさそうにフィと俺から顔を背けた。
その仕草が普段のキンブリーと違い子供っぽく見えて思わず笑ってしまう。
案の定睨まれた。
「なんでしょう?」
『いえ、少し…子供っぽいとこあるんだなーと』
「…爆発したいんですか?」
『冗談ですすみません何でもありません!!』
両手を向けてくるキンブリーに降参だと両手を掲げソファごと下がる。
その反応には満足したのかキンブリーは「冗談ですよ」と笑った。
俺は冗談じゃないと思う。
「…おや」
『はい?』
ふぅ、と息を吐きソファを元の位置に戻していると、キンブリーが窓の外を眺めていた。
何なのかと同じように窓に顔を向ける。
『あ、雨。』
先程まで雲一つなく日差しが少し強い程であったのに、今は曇天が広がり大粒の雨が窓にぶつかっていた。
「…全く、嫌な天気です」
『結構降り出しましたねー』
急いで立ち上がり窓を閉める。
と背後から音がした。
振り返るとキンブリーがコートを着ているところだった。
「そろそろ失礼します。」
『え、今雨酷いですよっ』
「病み上がりの貴方の家にいつまでも居座る気はありませんよ。」
急にまともな事を言って微笑むキンブリーはハットを被って玄関へと歩いて行く。
慌てて後を追う様に廊下に出た。
『ま、ちょっと少佐っ本当に帰る気ですか?』
「おや?泊まって良いんですか?」
『表までお送りします』
いつものようにいやらしい笑みを浮かべるキンブリーはやっぱりまともではない。
『どうぞ』と玄関への廊下を手で示し、顔を逸らした。
『…あの、今日は有り難う御座いました。一人じゃ大変だったし…本当に助かりました。』
「構いませんよ」
『わっ』
歩き出すキンブリーの背に礼を述べると振り向いた彼に頭を撫でられた。
ヒューズと違い優しく撫でてくる手。
これが紳士だよ。大人の男ってやつだよ。見たかヒューズ。
…いや?待て。紳士も大人の男も、こんなデカイ野郎の頭を撫でたりなんかしなだろ。
「では。」
『…あっ少佐!傘!傘使って下さい!』
満足したキンブリーが扉を開けそのまま出て行こうとする。
キンブリーは車で来ていたが、車までも距離がある。
この雨ではびしょ濡れになってしまう。
傘立てにある傘を一つキンブリーの上に開いた。
『こんな中歩いたら風邪引きますよ』
「……。」
『…少佐?』
少し驚いた様に見開かれた目でじっと見てくるキンブリー。
反応に困っていると笑われた。
「何でもありません。…もう結構ですよ。中に入りなさい。」
『あ、はい、じゃあ…お気をつけて。』
えぇ。と言って扉を閉められる。
少し濡れた袖を払い、リビングのソファに腰掛けた。
『…なんか俺変だったかな』
キンブリーの先程の反応が何か引っ掛かる。
だが理由は分からない。
腕を組み唸る。
何かは分からないが、忘れている事がある気がする。
『出てきそうなのに出てこないヤツだ、これ…』
もういいや、と傷がある事を忘れ腕を勢い良く上に伸ばすと当然だが酷い痛みが走った。
涙目になりながら、今日は早く休もうと寝室へ向かう。
多分、その内思い出すだろう。
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20230821加筆