1章
あなたの名前
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『…っつ…』
痛む頭を押さえる。
斜め前に立つキンブリーが振り向いてきた。
「大丈夫ですか?」
『…はい…』
ぶっちゃけ全然平気じゃないです。
前をむくキンブリーに心の中で言う。
今にも吐きそうだし、フラフラするし、頭はガンガンと殴られた様に痛む。
Q.風邪ですか?
A.いいえ、二日酔いです。
そんな訳でこんな大事な時に休める筈もなく。
こうして仕事にあたらせて頂いている。
こんな大事な時とはどんな大事な時か。
簡単に説明しよう。
「てめぇらそれ以上近付くと撃つぞオラアアッ!!」
「きゃああ!!」
『…っ』
こんな大事な時である。
『…人質がいるってのが…』
「厄介ですね。」
銃を持ち、脇に女を抱えている男。
男の背後は行き止まりで、俺達はその唯一の逃げ道を塞いでいる。
所謂、袋のネズミというやつだ。
だが男の持つ銃は女の頭へと向いており、下手に手を出せない。
『…少佐。』
「はい?」
『少佐が国家錬金術師だって事、少しだけ恨みたくなってきました。』
「私もです。」
はあ、と溜め息のタイミングが重なった。
こんな状況下、俺達というよりキンブリーが前線に立たされているのはキンブリーが紅蓮の錬金術師だからに他ならない。
横を見ると、どうにかしてくれとばかりにキンブリーを見る若い兵が防護盾を抱え震えていた。
『…おんぶに抱っこか…』
あほらし、と視線を前に戻す。
すると後ろから嫌な反響音がする。
頭に響くそれに何事かと涙目になりながら顔を向けると、後ろの方で防護盾を構えた男がマイクを手にしていた。
《無駄な事はよせ!もうお前は完全に包囲されてる!》
『つっ…!?』
キーンという反響音の中、男の声がスピーカーから響く。
どうやら犯人を説得する気らしい。
「全く…」
意味はないが耳を塞いでいる俺の横に立ち、顎に手を当て困った表情を浮かべるキンブリー。
今スピーカーで叫び続けているのは俺やキンブリーよりも上官である。
その為「やめろ」なんて事は決して言えない。
『…部下の前に立ち自分の生の声で犯人を説得して頂きたいものです。』
「彼にそんな勇気ありませんよ。今だって、あの防護盾を取り上げればすぐに逃げ出すでしょう。」
あはは、と笑う。が、途端に走る頭痛。
自分の声ですら今の俺には凶器だ。
「だ、だまれぇぇえぇ!!」
『っ』
狭い路地に犯人の男の声が響く。
あまり内容は聞いてなかったが、どうやらあの“お山の大将”は説得に失敗した様だ。
逆上する犯人。
人質の彼女は涙で化粧をボロボロにし、足は震えて怯えきっている。
どうやら時間は残っていない。
キンブリーもそう判断した様で、俺の前に手をやるとそのまま少し前に歩き出す。
「!てめぇ、とまれ!!」
女に当てた銃を更に押し付ける犯人。
だが、キンブリーの顔を見て驚いた顔をした後に大声で笑い出す。
「国家錬金術師!お前国家錬金術師だろう!」
「それが何か?」
表情を変えずに答えるキンブリー。
犯人はそれをどう受け取ったか知らないが、声を荒げた。
「俺らの為に働くべき狗が…所詮は軍の狗か!」
「おや?こうして大衆の為に働いていると思いますが」
「っ!」
俺の前に立つキンブリーの顔なんて、ここからでは見える筈もないが、今キンブリーは笑っている。
そう確信した。
万が一人質に危害が加えられない様に、と銃を構え犯人に照準を合わせる。
すると犯人は何か考えた後動いた。
「…てんめぇ…ぶち殺してやるァアァ!!」
『っ!しょう…』
人質の頭へと当てられていた銃。
それがゆっくりとキンブリーへと向く。
きっと決してゆっくりではなかった。
だがまるでスローになったかの様に、その動きはとても遅かった。
少佐、危ない。
そう言うが先か、動くが先か。
はっきりとは分からないが、俺はキンブリーの前に飛び出した。
「ショスナト?」
背後からキンブリーの驚いた声が聞こえた。
続く発砲音。
『…だから痛いんですって』
二日酔いだから、響く。
そう言い切る前に、俺の意識は途絶えた。
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多分一番書いてて楽しかったこの話