1章
あなたの名前
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『まぁ今日は俺の奢りだから遠慮して飲め』
「んじゃお言葉に甘えて朝まで飲み倒すかー!」
『おい待て。』
あの後仕事を終えた俺は、ヒューズとロイを誘って近所の酒場に来ていた。
気の許したこのメンバーだからというのもあるが昼間の疲れが強く、酒の回りはいつも以上に早かった。
既に真っ赤な顔のヒューズとロイ。
多分、俺も同じだろう。
「で、最近どうよ?」
これ、と小指を立てるヒューズ。
おっさん臭い仕草だな、なんて思いながら店員にビールを追加する。
あまり時間を待たずに冷えたビールがやってきた。
運んできた女店員に視線を移す。
『んー、最近失恋しちゃってフリーよ』
「どこ見て言ってんだ」
にこっと笑いかけると女店員はウインクして去って行く。
これはいけるな、なんて考えているとヒューズに頭を叩かれた。
「お前に人の心はあるのか」
『失礼だな。失恋は本当だぞ』
「へいへい」
あまり聞く気のないヒューズ。
何で質問してきたんだよ、と睨む。
『そういうお前らはどうなんだ?』
「いたらこんなムサい所いねぇよ…」
うなだれるヒューズ。
ゴン、と音を立てテーブルに頭を打ち付けた。
『あ、やっぱり?』
「やっぱりってなんだよ!」
『ヒューズと違ってロイはモテるだろ。最近どう?』
「おい、それどーゆー意味だ?」
「ないさ。そんなの、今は必要ない。」
身を乗り出すヒューズを無視してロイに聞くが、ロイは小さく笑うと否定した。
なんてもったいない、しかしあまり驚きはしなかった。
『お前は相変わらずだな』
「そうか」
ジョッキをロイに向け笑うとロイも笑う。
ふと視線を感じ、目を向けると先程の女店員がこちらを見ていた。
「ショスナト、お誘いだぞ」
『んー…みたいね。』
「行かせねぇぞ!?」
『行かねーよ』
今日は、と小さく付け加えた。
ヒューズには聞こえてなかった様だが、ロイには聞こえていた様でロイは口元を隠して笑う。
女店員に微笑みかけると投げキスしてきた。
中々素晴らしいプロポーション。
大物が釣れたぞ。とにやつく顔を隠す様にビールを煽った。
『…俺ってつくづく女好き』
「今更気付いたか」
ヒューズに突っ込まれた。
まぁそれもそうだなと笑う。
スラリと伸びる足。曲線を描く胸と尻。柔らかな身体。サラサラの髪。優しい香り。
大きな声では言えないが、大好きです。
だがその中で一人の人物が浮かぶ。
『…なんで浮かぶよ…』
「あ?」
頭をガシガシと掻くと隣にいたヒューズが反応する。
なんでもない、と言うとロイとの雑談へと戻った。
『…』
<貴方ですよ、ショスナト…>
思い出されるキンブリーの言葉と顔。と、唇の感触。
唇を噛み締め、思い出すまいとするが一度考えてしまうとそれは中々難しかった。
何故あんな事をしたのだろう?
いつも怒りが沸いてきてあまり真面目に考えた事がなかったが、今は落ち着いて考えられそうだ。
嫌がらせ。暇つぶし。
そんな言葉が浮かんでくる。
まぁ俺は嫌がらせや暇つぶしで男にキスなんて出来ないから、少し違和感があるが。
大体俺は、男じゃなく女が好きだし。
『…んっ?』
ふと有り得ない考えが浮かぶ。
隣でヒューズが溜め息をつきながら俺を見てきた。
「お前な、さっきからどうした?」
『…や、なんでもない…』
悪ぃ、と言うとヒューズは少し俺を見た後ロイへと向き直る。
そうだ。俺は女が好きだから、ヒューズみたいに頼れるお父さんみたいな男にも、ロイみたいに童顔で女泣かせなくせに真面目な男にも、全く男として魅力を感じない。
だけど、キンブリーはそうではなかったら?
『…』
ぞわり、と背筋が粟立つ。
いや、もう考えるのは止そう。
こんな時はビールだ。
『おい!ヒューズ!ロイ!飲め!』
「いって、飲んでるよ飲んでる!
ショスナトお前酔いすぎだぞっ?」
「静かだと思ったら…」
うるせーっとヒューズとロイの頭をぐちゃぐちゃに撫でればお返しとばかりに頭を撫でまわされる。
『きゃあーやめてぇー先輩に何て事すんのよぉ!』
「野太い声でやめろ気持ちワリィ!」
『いって!お前叩き過ぎだぞっ』
「ヒューズ、先輩をまた泣かせる気か」
「昼間のは嘘泣きだ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるヒューズ。
全く、この2人といては腹筋が鍛えられるな。なんて笑った。