番外編
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「っふ…っ…も、むり…っ」
『大丈夫だよエド。ほら、力抜いて?』
「やだ…っくっ…はあっ!せんせ…ぇっ」
『あと少しで全部入るからね』
「……。ねぇ先生、エド顔青くなってるよ?」
『え?…あ、やべっ!
おいエド!牛乳なんかで死ぬな!!』
ーーここは鋼セントラル高校。
その2年生の教室で、エドワード・エルリックは息絶えようとしていた。
「っゲホッ!カハッ…」
『やー。悪ィ悪ィ。』
「…ま、まじで死ぬかと思った…」
『お。でも牛乳全部飲んでんじゃん。エライエライ!』
「…今なら正当防衛でアンタに何したって罪に問われないよな…」
『なんだ。まだカルシウム足らんか』
「も、もう充分です足りました!!!」
額に青筋を浮かべショスナトを睨んでいたエドは慌てて手と首を振った。
というのも、事の発展はこうである。
ー『あれ?エド。お前牛乳飲まないの?』
「…牛乳はきらいだ」
昼休みに見回りで教室を訪れたショスナトはエドの机に置かれたままの牛乳を手に取った。
ぷい、と顔を逸らすエド。
『お前なー牛乳飲まないと背も伸びないぞ?』
「そんな根拠はない。牛乳なんか飲まなくたって死なない」
ふんっと鼻を鳴らすエドにショスナトはムッとした表情になり、エドの隣に腰掛けた。
『牛乳にはな、カルシウムが豊富なんだよ。
カルシウム様がお前のちっこい身体の中で何してくださるか分かる?』
「ちっこい言うな!!」
『それだよ。お前超短気じゃん。カルシウム足んないからだぞー』
暴れ出すエドの拳をよけつつ、いつの間にかエドが身動き取れぬようガッチリと押さえ込むショスナト。
尚も暴れるエドを放って、ショスナトは空いた手で牛乳を開けると半分程飲んだ。
『そんなんじゃストレス溜まるだろ?
お前みたいな成長期の頃のストレスは成長とめるぞ?』
「まじで!!?」
『だから牛乳飲んどけ。カルシウム様はお前を八頭身にしてくださるから』
『半分は飲んだからあと全部飲めな』と、納得しかけたエドの口に牛乳を押し付けるショスナト。
そうして、冒頭に戻る。
『ま、少しずつ克服していこうよ。』
「…余計トラウマになった気もすんだけど」
あはは、と笑いながら満足したのか手を振って教室を出て行くショスナト。
エドはそれを見届けるとがくりと肩を落とした。
「大丈夫?」心配そうに背中をさするウィンリィ。
「なんとかな」とウィンリィに返事をするエドの前に、ス、と影が差した。
「随分お疲れのようですね。エドワード・エルリック」
ニコリ。
いつもの笑顔を浮かべたキンブリー先生が、エドの正面にドンと立っていた。
いつの間に、と驚くエドとウィンリィ。
ふとキンブリーの横を見ると、隣には何故か同じクラスのエンヴィーと3年のハボックも立っている。
「…え、何?」
「良い度胸してるね、おチビさん」
「誰がチビだ「お前なに先生と間接キスしてんの?」
ハボックの言葉に「は?」と顔をしかめるエド。
ハボックの顔は真剣で、とても冗談を言っているようには見えない。
それどころか、3人共いつにも増して殺気立っている。
「…えーと。話読めねぇんだけど」
「ほう?」
冷や汗を流すエド。
何か言いかけたキンブリーを押しのけ、ハボックとエンヴィーがエドにずいっと迫った。
「このエンヴィー様の目の前で僕のショスナトとイチャついといてよく言うよ」
「しかも間接の上飲ませてもらうだなんざお前羨ましすぎるだろうが!!」
目の前で叫ぶハボックの顔を押しのけ、飛んでくるエンヴィーの拳を押さえながら、エドは顔をこの上なくしかめた。
「知るかよ!あいつが勝手にやってきたんだぞ!」
「ほーお?じゃあ迷惑ってか!!俺のクライスラー先生かわいそう!」
「は?ショスナトはこのエンヴィーのものだけど。」
泣き出すハボックにピタリと動きを止めるエンヴィー。
ハボックを見る目は冷たい。
「あ?何言ってんだ。クライスラー先生は俺のもので俺はクライスラー先生のものだ」
「キモ。ショスナトは僕だけのものだし。」
「は?」とお互いに睨み合うエンヴィーとハボック。
今の内、と後ずさるエドの視界の端に、その2人を静かに見ているキンブリーの姿が入った。
(なんだかんだ言っても教師だしな)
この2人のように暴れたりはしないか。と納得するエド。
しかしそう納得してすぐ、キンブリーは静かに両手を掲げた。
「何を勝手なことを…。ショスナトは私のものですよ。」
ニコリ。
キンブリーがそう言って微笑んだ瞬間、2年の教室は凄まじい音と共に吹き飛んだ。
『なんだ今のはー!?』
爆発音にすぐさま駆けつけるショスナト。
教室から出たキンブリーはそのショスナトの腕を引くと、職員室へと歩き出した。
『ちょ!?キンブリー先生っあの、教室っ!』
「構いませんよ。生徒同士の喧嘩です。」
『はっ?喧嘩で爆発ってそれは…』
「あぁ、爆発で足を痛めたので肩を借りても?クライスラー先生。」
『なんですって!?』と慌ててキンブリーの腕を抱くショスナトと、それに寄り掛かり歩きだすキンブリー。
教室を後にする2人の背後で、エドはボロボロになりながら教室を脱出しそのまま廊下に倒れた。
「…くそ…二度と牛乳なんか…飲まねぇ……!」
誰にも聞かれぬまま、悲痛な叫びは廊下に響いた。
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