1章
あなたの名前
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「では15分休憩ー!」
「はあーい!」
「よっしゃあ!休憩ーっ!」
『だあーっ』
教官の言葉にそれぞれ地面に倒れこんだり、水を飲みにと散らばっていく。
ここは武道場。
今日はここで実技訓練を行っていた。
「あぁ、いたいた。ショスナトっ」
『ん?』
名前を呼ばれ、声のした方を向くと見覚えのある顔が並んでいた。
懐かしいその顔に思わず顔が綻ぶ。
『ヒューズ。ロイ。』
「よっ」
「お久しぶりです」
ニカッと笑い肩を叩いてくるヒューズと丁寧に挨拶してくれるロイ。
この凸凹な2人は俺の士官学校での後輩。
『おい、ヒューズ。先輩に対する態度か?それ。ロイを見習えっ』
「…や、それを言うなら上官に対する、だろ…」
冷や汗を流すヒューズの背中を叩いた。
『うるせぇっそんなの知るか!』
「意味わかんねーぞ」
「全く…」
ははは、と3人で笑う。
この2人に会うのは随分久しぶりで、こうして笑い合っていると学生時代に一緒にやった馬鹿を思い出した。
意味のない馬鹿騒ぎ。度を越したイタズラ。
今となっては若気の至りというやつだが、一つ一つが大切な青春の思い出だ。
「てかよ、」
『ん?』
「お前、なんかあったのか?」
『…は?』
唐突に投げかけられる問い。
意味が分からずヒューズを見れば真剣な目とぶつかった。
隣のロイに視線をやる。
ロイも、同じように俺を見ていた。
『どーゆー意味だ?それ。』
「や、深い意味はねぇんだがよ」
『あぁ』
「…お前、目が怖いぞ」
『……はあ?』
思わず声が大きくなる。
ゴホン、と咳払い。
『…俺が?このジェントルメンで女神の様な俺が?』
「冗談じゃねーんだ」
『…』
「…最近クライスラー先輩が怖い、とお前の可愛い後輩達が怯えてる。」
今度は、驚いて声が出なかった。
ロイの方へと顔を向けると、少しつらそうな顔をしたロイと目が合った。
口元を両手で覆う。
「…まぁストレスでも溜まってんだろうって話はついてるし、今までのお前を皆知ってる。
だから、ただ怖いっていうより心配してんのさ。」
『……』
ヒューズが少し明るい声で、励まそうとしてくれる。
が、先程の言葉は中々胸に響くものがあった。
なにより思い当たる節が多いのだ。
『…どうりで組み手の相棒つかまんない訳だ…』
「今までと違って一切手加減してくれないし厳しいから嫌、だそうだ」
「おいロイ」
『構わないよ。…そっかー…』
はあ、と大きく溜め息をついた。
最近は確かに仕事も忙しいし疲れが溜まっていた。
というよりストレスがこの数日で酷かった。
だから、というのは言い訳だが、その捌け口として後輩に強く当たってしまっていたのだろう。
『…情けないなー俺』
じわ、と滲む視界。
隣でヒューズが慌てるのが分かった。
「なっ?おま、な、泣くなよ!」
『泣いてねぇよ。うるっときただけだ』
「同じだろ!?」
目の端にたまった涙を拭う。
どうも最近涙腺が緩い。年か?
尚も慌てているヒューズがシワになったハンカチを取り出して押し付けてくる。
それを見て吹き出した。
『ぷっお前こういう細かい所をキチッとしねぇからモテないんだ』
「うるせーっ!俺はお前みたいなタラシと違って真面目なんだよ!」
『うっ…そんな酷いこと…っ』
両手で顔を覆い泣くふりをする。
案の定更に慌てるヒューズ。
笑いを堪えるのがつらい。
「泣かせたな。ヒューズ。」
「!」
「女を泣かせられないから男を泣かすなんて、素晴らしい発想の転換だ。」
「てめぇロイっ!!」
『ぶはっもう無理だ、お前ら面白すぎる!』
「!嘘泣きだと…!?」
あははは、と腹を抱えて笑う俺とロイに怒り出すヒューズ。
ナイスフォロー、とロイに拳を向けると同じように拳を出しお互いにぶつけた。