1章
あなたの名前
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「クライスラー、おつかれ。」
「おつかれさーん」
『…おつかれ。』
ぞくぞくと帰って行く同僚達。
羨ましいことこの上ない。
チラリとキンブリーを見れば、まだ書類に没頭している様で真剣な顔で机の書類を睨んでいた。
どうやら最近何かと忙しいらしい。
俺が言うのも何だが、キンブリーはとても有能な男だ。
仕事は早く確実で、急なトラブルが発生しても全く動じない。
だからあまりこうして残業してまで書類をしている姿は中々貴重というか、珍しかった。
「どうしました?」
『っ』
顔を上げるキンブリー。
それまでぼぅ、と見ていた為いきなり顔を上げたキンブリーと目が合った。
思わず顔を逸らす。
『…いえ。』
そんな俺の失礼な態度にも何も言わずまた書類にペンを走らせる音が室内に響く。
キンブリーは驚いた様子ではなかった。
それは、俺が見ていた事に気付いていたということ。
考えていると恥ずかしくなり、少し顔が熱くなった。
「クライスラー。」
『はい』
それからしばらくして、書類が片付いたのかキンブリーから声がかかる。
キンブリーの方を見れば、こちらに来い。と目で訴えられる。
『…お話というのは。』
指示通りにキンブリーの机を挟んで正面に立つ。
緊張の為か、背中を汗が伝った。
「煙草、やめたんですか?」
『…はい?』
思わず聞き返す。
一つ咳払いし、大きく頷いて見せた。
『…ご命令通りに。』
「…」
だが、キンブリーの表情はあまり喜んでいる様には見えず、それどころか不審そうに俺を見てきた。
キンブリーは何も言わず立ち上がり、そのまま手を伸ばして俺のズボンのポケットを探ってくる。
『ちょっ?』
「…本当に持っていないなんて」
『そ、そりゃあっやめましたので!』
あまりの事に驚いて身を逸らす。
が、キンブリーの手は胸ポケットや隠しポケットにも伸び、さわさわと探られる。
正直、くすぐったい。
ぐっと唇を噛み堪えていると、鼻で笑われた。
「…案外、簡単じゃないですか。禁煙。」
あんな事言っていた割に。と、笑うキンブリー。
軍服にある全てのポケットを探り終えた手が、首筋から徐々に口元へと上ってくる。
ごくり、と息を飲んだ。
『…ご命令でしたので。』
「へえ?」
我ながらよく言えた台詞だと思いながら、唇に触れるキンブリーの指先に意識が集中する。
何をするでもなく、唇の形に沿って指を這わすキンブリー。
少しの間そうしていたが、飽きたとばかりに顔が近づく。
『っ』
「…それとも」
ふぅ、と耳にかけられる息。
ぞくりと反応してしまう。
動けず、目と鼻の先にあるキンブリーの顔を視線だけ動かして見ると、妖しく笑みを浮かべたキンブリーと目が合った。
「…褒美が欲しいんですか?」
『な…っ!?』
カッと顔に熱が集中する。
声に出し笑うキンブリー。
やられた。
『…か、からかうのは…やめて下さい…』
「からかう?」
『…』
真剣な顔になり、真っ直ぐ見てくるキンブリーから目を逸らす。
ため息が聞こえた。
「…そんな顔をされたら、もっとしたくなるという事を覚えておきなさい。」
『え…っ』
少し低いトーンのその声に、思わず顔を上げると塞がれる口。
柔らかい、感触。
そして、口の中へ押し入る異物。
『っ!?』
驚いて押しのけようにも、腕を掴まれ動けない。
『ふっ…くあ…っ』
乱暴に犯される口腔。
見開いた目には、真っ直ぐ俺を見てくるキンブリーの瞳が映り、その視線に耐えられず目を瞑る。
『っは…っ』
キスなんて慣れてる。
なのに、何故か苦しくなる呼吸に頭が朦朧としてきた頃、塞がれていた口が解放され呼吸が楽になる。
同時に支えていたキンブリーの腕も離れ、ふらっと身体が揺れると腰から支えられた。
「大丈夫ですか?」
にこり。
何事も無かったかの様に笑顔を浮かれるキンブリー。
ぷちっと、何かが切れる音がした。
「…ショスナト?」
『ーっざけんな…っ!!』
バシッと腰にあてがわれた手をはねのける。
キンブリーが、少し驚いた顔をした。
ぐっと、拳を固める。
『俺はね…最近珍しく真剣に恋をして、女遊びもやめて、それで…失恋して、上司にからかわれて…煙草も外では控えて…』
「…」
『もう……もう…っ
フラストレーション限界超えて一周したわーーっ!!』
「、ショスナト!」
バッと身を翻し外へと走る。
後ろからキンブリーが名前を呼んでいたがそんなものは無視だ。
大きな音を立て走る俺にすれ違った上官が何か言っていたがよく聞こえなかった。
何故かぼやける視界。
これが涙だと気付いたのは、自宅のベッドに潜り込んで枕がびしょびしょに濡れた時だった。