1章
あなたの名前
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母さんの声が聞こえた気がして、目が覚めた。
『…ガキかよ』
身体を起こしを頭を抱えて自虐的に笑う。
カーテンを開けると、日曜日ということもあり外は随分と賑やかなものだった。
天気も良い。
出掛けるにはぴったりな日和だ。
しかし今日はあまり出掛ける気にはならない。
リビングに向かい、上着を羽織る。
『…はらへったぁー』
誰に、とも誰も居ない家の中で一人ごちた。
外に食べに行こうか。
それとも何か作ろうか。
しかしどうにも身体がだるい。
ソファーに深く腰掛けると、昨夜見た夢が思い出された。
「あなたはあなたのままで良いのよ」
「そんな甘い考えで人の上に立てると思うな」
『…。』
昔、母と父に言われた言葉。
元々うちは軍家系で、父は厳格な少将だった。
その父に優しくしてもらった記憶なんてなく、そもそも父らしいことをしてもらった記憶もなかった。
父に認められたかった俺はいつも上手くいかずに苛立って、母はいつもそんな俺に優しくしてくれた。
そんな両親は、ある日事故にあった。
いつも厳しくいつも強かった父。
いつも優しくいつも笑ってた母。
雨が降る中で俺は大切な全てを失った。
それからは反動というか、何かが切れたというか、
しばらくはあまり思い出したくない程に俺は酷い状態だった。
そんな酷い状態の時に思い出した、いつも父の吸っていた葉巻の香り。
書斎に置かれたままのそれに、手を伸ばす。
『…っゲホッ!?』
案の定、というか我ながら馬鹿、というか咽せた。
『…信じらんねぇ…なんだこれ…修行か…』
オェ、と目の端に溜まった涙を拭いながらえずく。
これ以上は無理だと火を消すが、辺りに漂う香りはどこか懐かしく心地良い。
『…』
目を瞑ると、父と母が近くにいる様な気がした。
『……。』
目を開けると、あの頃とは少しだけ様変わりした部屋が視界に広がる。
『煙草まだ残ってたっけ…』
コートのポケットに手を伸ばす。
覚えのある箱に指が当たり、思わず笑みが零れた。
だが見ると中には一本の煙草。
これで終わりか、と落胆した。
『…あー…生き返る』
火をつけ大きく吸うと心地良い煙が身体に沁みた。
ゆっくり目を瞑る。
「頑張ってっ」
「俺の息子ならば当然だ。」
『…。』
入隊が決まった日に掛けられた言葉。
その声が、まるで今目の前に2人が実際にいるかの様にはっきりと聞こえた。
自然と上がる口角。
『…わぁかってるっての。』
瞼を開け、誰も居ない部屋で一人笑った。