1章
あなたの名前
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「…」
『…』
俺はどうすることも出来ず、ただ目の前の椅子に座るキンブリーを前に姿勢を正し立っていた。
「…そんなにやめられませんか」
ふぅ、と小さく溜め息をつくキンブリー。
1回目だと喉まで出てきたがぐっと堪える。
『…食事の休憩と煙草の休憩の二択であれば私は煙草の休憩を選びます』
「では長い昼休憩は貴方に必要ありませんね。」
『は』
なんという悪魔だと思いながらも天秤にかけ悩んでいる自分に気付く。
『…』
黙っていると、キンブリーがゆっくり立ち上がる。
そして近づいてくる。
何事かと後ずさりそうになるが我慢して姿勢を維持した。
「知っていますか?ショスナト。」
『…何をでしょう』
「人は口寂しいから煙草を吸ってしまう、なんていわれがあるんですよ」
ズイ、と顔を近づけてくるキンブリー。
後退ろうにも、襟元を掴まれ逃げられない。
顔をひきつらせていると、ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべてキンブリーは鼻がぶつかりそうな程に距離を詰めた。
「…口寂しいのなら、私が寂しさを埋めて差し上げましょう。」
『っ』
フラッシュバックする光景、感触。
思わず、近付いてくるキンブリーの顔にグッと目を瞑った。
が、いつまで経っても以前の様な感触は唇に無い。
恐る恐る目を開けると、キンブリーは今まで見た事がないくらいの優しい表情を浮かべていた。
『……少佐…?』
思わず呼ぶと、ぴくりと身体を反応させ襟元の手を離して自分の席へと戻るキンブリー。
「…冗談です。」
『…』
それだけ言うと、仕事に戻れとばかりに自分はファイルを開く。
肩の力が抜けた。
されなくて済んだ。そんな事を思いながら席につきペンを持つ。
…いや、される事の方がおかしいんだよ。
セクハラで訴えようかな…。
「ショスナト」
『はひっ!?』
あまりのタイミングに、心を読まれたのかと驚き声が裏返る。
が、キンブリーはあまり気にした様子もなく続ける。
「あくまでも貴方が喫煙を続けると言うのなら、…分かりますね?」
『…』
サァ、と血の気の引く音がした。
悪戯っぽく言うキンブリーの言葉はその言い方とは反対に、俺には悪魔の囁きにしか聞こえなかった。