マルハナバチ
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一瞬にして何処かの部屋に移動させられたクリーデンスは突然のことによろめき、ショスナトはそれを支え背中をポンポンと叩いた。
『大丈夫?クリーデンス君。そしてようこそ。此処は僕の家だ。』
「…こ、ここが…」
『そう。散らかってて悪いが、好きな所で寛いでてくれるかい?珈琲を淹れよう。』
「……」
『…いや寛げる状態じゃないなこの部屋…。少し待って』
部屋の奥へクリーデンスを誘導するショスナトは部屋の状態に苦笑すると、散らばった本や服を魔法で片付けていく。
それをキラキラとした目で見つめるクリーデンス。
『下着が転がってなくて幸いだった』とショスナトの冗談も聞こえている様子はない。
『さ、座って。遠慮なんかして座らなければこれ使っちゃうぞ。』
「ぼ、僕なんかに…魔法なんて…」
『…クリーデンス君。そう言われるとしてやりたくなるんだよ。』
杖をひと振りし、クリーデンスを目の前のソファに座らせる。
驚くクリーデンスに機嫌良さげなショスナトは珈琲を淹れる傍ら、2人の間にあるテーブル上に置かれた何冊かの本を広げた。
『言い訳なんだけど、散らかってたのは君に見せる本を探してたからでね。
僕が使ってた教科書だから随分ボロボロだけど…勉強する分には問題ないだろ?』
「魔法使いの学校が…あるんですか?」
『そう。魔法使いにも学校がある。じゃなきゃ力の使い方も制御の仕方も分からない。
今のだって制御しなかったらクリーデンス君を窓の外に放り出しちゃったかもしれないよ?』
『それは嫌だろ?』とクリーデンスに訊くショスナト。
クリーデンスが頷くと嬉しそうに目の前の珈琲を飲んで話を続けた。
――クリーデンスに魔法を使っている所を見られて半月。
2日に一度は見掛け、挨拶とほんの少しの雑談をしていた半月。
ショスナトは当初彼を家に招くつもりなど毛頭なかった。
だがこの半月の間で彼の想いと、彼を知るほどに見えてくる義母の行いに、ショスナトの意志は簡単に揺らいだ。
彼の素質がどうだろうと、今のこの彼を救う事が重要だと。そう思ったのだ。
『…クリーデンス君、答えにくかったら答えなくて良い。
魔法を使って無理に聞き出したりもしないよ。』
「…はい」
『君の母親は、どうして君を苦しめるんだい?』
あまり表立って変化のないクリーデンスの顔をショスナトはじっと見つめる。
膝の上で固く握りしめられたその手に自身の手を重ね、ショスナトは続けた。
『不躾な質問をしてすまない。ただ不当な暴力行為ならば保護を申請したり…
いや!その、正当な暴力なんて無いんだが、…ええとだな』
「…僕が悪いから、仕方無いんです…」
『……。』
クリーデンスの言葉に表情を険しくするショスナト。
言葉を探し、一度テーブルの上の本に視線を動かすともう一度クリーデンスを見た。
『…何かあったら、僕の家に来るといい。もちろん何も無くても構わないよ。』
「……」
『クリーデンス君。君は、そうだな…今日から僕の生徒だ。助手かな?
好きな時にここへ来て本を読んでも、寝ても、僕の食事に付き合ってくれても構わない。
というより一人暮らしは退屈なんだ。是非頼む。』
表情を和らげ、『歓迎だよ』と両手を広げるショスナト。
クリーデンスは中々理解が出来ず、暫く固まった後ハッとして固まったままの顔を縦に何度も振った。
『決まりだな』
嬉しそうに立ち上がるショスナトは手を叩くと『あとたまに冒険もしよう』とクリーデンスに部屋の鍵を投げて渡した。
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2016
20230908添削
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