歪む迷路
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ガタガタと揺れる車の振動は凄まじく、夢の中でさえもショスナトはその揺れに苛立っていた。
『……?』
「起きたか?」
ぼんやりとした意識がハッキリとしてきてショスナトは目を開ける。
声がする方へと顔を向けると横向きに座るミスター・プリーストがいた。
だが横になっているのはショスナトの方で、何故か痛む頭を押さえながらゆっくりと座席から身を起こした。
『…どうしてこの車に?』
「他のは満員だ。気絶した人間を全員で膝に乗せるのもまぁ、面白そうだが」
『そうよ気絶!った…』
咄嗟に勢いよく首を動かしショスナトはその痛みに顔を歪め両手で頭を抱え込んだ。
プロジェクト・インキュバスの車内は無骨で座席が向かい合う形になっている為、座ったままでもお互いの手は簡単に届く。
プリーストはショスナトの両手を掴み、あらわになった頭部の傷を眺めた。
『…2人は?』
「消えた。一瞬でな。出血は止まったな。随分と頑丈な頭だ」
『消えた?』
「彼女のコントロール能力がいいのか君がノロマなのか」
『私の話は良いって』
手を振り払い、見つめてくるプリーストの視線に居心地悪そうに顔を背けるショスナト。
そしてある事に気づいた。
『…この車私たち以外乗ってないの?』
「本来これは只のエサ。荷台に積まれビニールで覆われた車に乗る人間は普通いない」
『……』
説明を聞きながらショスナトは運転席側の窓へと手を伸ばし、開けるとその向こうにあるビニールに手を触れた。
バタバタと風ではためく黒いビニールは指が触れたところでその動きを止めはしない。
『その…ありがとう。あの時庇ってくれて』
「結果的に君は怪我した上に気絶してる。礼は不要だ」
『これは私がドジだったから…』
窓を閉めながら照れくさそうに話すショスナトはプリーストの言葉に言い淀んだ。
プリーストが笑う。
「ドジじゃない。私を庇ったんだろう?」
『出しゃばっただけ。結局プリーストも怪我してる。…その上こんな所に付き合わせてる』
不甲斐なさに落ち込むショスナトが俯いてほつれた髪を撫でる。
プリーストはその手を掴んで自身の方へと引き寄せた。
「君のお陰で私は助かった。それにショスナトと2人きりで居られるというのなら、場所なんてどこでも構わない」
口元に笑みを浮かべたプリーストの言葉にショスナトは少し固まり、そして微笑んだ。
『プリーストのそういうの、私をバカにしてるからなのは分かってても今は少し、気がラクになる』
「誤解があるが君の気が晴れたなら今は良いさ」
肩を竦めてみせるプリーストに穏やかに微笑むショスナト。
プリーストは初めて見るその笑顔に、同じく穏やかな笑みを浮かべた。
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202011
20230913添削