歪む迷路
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「ミスター・プリーストを呼べ」
プロジェクト・イカルスの消えた部屋でそう叫んだフリードキンにショスナトは頭を抱えた。
背後では既に連絡の手筈を整えにアシステントが動き出しており、フリードキンはショスナトの様子に不安な表情を浮かべる。
「…何か問題でもあるのか?」
『何も。彼は優秀よ。私が保証する』
「研究対象に逃げられる様な警備部の責任者に保証されても何にもならない」
『逃がした数は私の方がマシ』
「数?」
意味が分からないとばかりにフリードキンが首を捻る。
しかしショスナトはそれに答えず部屋を出た。
部屋からはフリードキンのショスナトを呼ぶ声がする。
イカルスが消えた事でショスナトの今日の仕事は白紙に戻っていた。
だと言うのに、イカルスの失踪よりも厄介な人物がこれから来訪する。
ショスナトはため息をつきながら残り僅かな穏やかな時間を過ごしに急いだ。
◇
イカルスやタクシーの中の男の元で不要な会話をしているフリードキン。
リギンズ大佐が解任され新たに司令としてやって来た彼は全くと言っていい程使えない人材であり、それゆえ今後の為にもショスナトは彼を掌握しておくべきと考えていた。
そしてショスナトは今彼の部屋の前に立っていた。
フリードキンは子供と変わらない。
うまくやれば簡単に丸め込めるだろう。
プリーストはすぐにでもここへやって来る。
その前に、ハッキリさせておかなくてはならない。
ここはもうプリーストのホームではないのだから。
「…おや?」
ノックしようとショスナトが手を伸ばすと、目の前で扉が開き1人の男が出てくる。
その男は重たそうな瞼を瞬かせ、片手を上げて見せた。
「やあ、ショスナト。この部屋で今からお仕事か?」
『……プリースト』
忌々しそうにショスナトがその顔を見上げる。
しかしプリーストは気にせず笑みを浮かべショスナトに一歩近づいた。
『どうしてここに?』
「気にするな。今から君の所へ向かうつもりだった」
『長旅で疲れたでしょ。私なんかに時間を割かずさっさと休めば?』
「お子様ももうおねむの時間さ。これからは大人の時間だ。君の部屋で2人でゆっくり過ごそう」
フリードキンの部屋を後ろ手に指差すとプリーストはショスナトに手を伸ばした。
が、その手をショスナトは払い落としじっと睨む。
『つまらない冗談を何年続ける気?馬鹿にするのも大概にして。』
「おいおい、久しぶりの再会なんだ。昔みたいに仲良くしようじゃないか」
『昔と同じように接してるでしょ』
吐き捨てる様な声色にプリーストはいつもの高い笑い声を上げた。
呆れた様にショスナトは背中を向け、元来た道を歩き出す。
「おや、彼に用があったんじゃないのか?」
『今日はもういい。貴方と話して疲れたしもう休む』
「それが良い。明日からは忙しくなるぞ」
『……』
背後のプリーストの言葉にショスナトは怪訝そうな顔で振り向いた。
だがプリーストは何も言わず、ショスナトが質問を投げようと口を開くとそれに合わせウインクした。
その威力は絶大でショスナトは眉間の皺を濃くし、口を閉ざすとそのまま前を向いて歩きだした。
「ゆっくり話せて良かったよ、ショスナト」
『私もよ。また10年後ね。』
離れて行くショスナトの背に届くよう声を張るプリースト。
そんな嫌味にも振り向かないままヒラヒラと手を振るショスナトは、プリーストの小さな呟きに気づかなかった。
「…明日からも沢山話そう」
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202011
202308添削