歪む迷路
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ショスナトは目の前で穏やかな寝息を立てるブラック・ウィングの怪物を、もう何分も信じられないものを見る目で見つめていた。
場所は居住区から遠く離れた林の中。
プロジェクト・イカルス他の足取りが判明しない為一同は野営を張っていた。
ショスナトは部下から毛布と食料、加えてタブレット端末を受け取り、プロジェクト・インキュバスの車中で他の被験体の状況や目撃情報を調べていた。
そして何故か、そのショスナトの前でプリーストは随分と安らかな寝顔を晒していた。
『……』
ーいつも淀んだ目で人を痛め付けては無邪気に笑う、悪意が服を着たような男の寝顔がこんなにも穏やかなものなのか?
そんな事を考えながらショスナトはいくら見ても目に馴染まないその姿から目が離せずにいた。
「…そんなに見ていて飽きないのか?」
突如その口元が動き、いつもの小馬鹿にした様な声が車内に響く。
ショスナトは驚いて手からタブレットを落とし、床に逃げたそれは大きな音を立てた。
『起きてたの!?』
「ショスナトの熱い視線を14分も浴びていたんだ。当然だろう?」
右目を閉じウインクしてみせる14分見つめられていた男プリースト。
ショスナトは言葉にならず唖然とした。
転がるタブレットを拾い上げ、プリーストは代わりに毛布をショスナトに差し出した。
「仕事熱心なのは素晴らしい。だが休息も必要だぞ。君は内勤で身体が鈍ってるだろ?」
『…プリーストこそ移動続きで疲れてるでしょ。さっさと寝たら?』
「私はなんて事ない」
『今眠ってた』
「ショスナトが熱心に見つめるから動かないでいたのさ」
恐る恐るといった様子で毛布を受け取るショスナトにプリーストは少し笑い、両手を掲げた。
「何もしやしないさ。こう見えても私は紳士だ。」
『ブラックウィングの怪物が何言ってんの?』
「それに私の居るこの場所を選んだのは君だろう」
『そうね。今自分の決断の甘さを嘆いてる』
ショスナトはわざとらしく肩を落とし、チラリとプリーストを見ると少しの間を置きその額を指差した。
『…痛まない?』
「まさか、心配を?君が?その為にここへ来たのか?」
『安否確認よ。部隊の傷病者に配慮するのは当然の事。私はこう見えても副司令だし』
小さく吹き出して笑うプリーストに焦ったように早口で話すショスナトの顔は段々と赤くなる。
プリーストは楽しそうに身を乗り出し、まじまじとショスナトを見た。
「信じられん。君は一体誰だ?何がそうさせた?」
『…私ってイカれた貴方と違って案外まともなのよ』
『失望してくれた?』とプリーストの視線を少しでも遮るように毛布にくるまるショスナト。
プリーストはきょとんとした表情をゆっくりと湿り気のある笑みに変えると、ショスナトの隣に席を移動した。
「多面性のある複雑な君はより一層魅力的だ」
『近い。』
「怪我の確認はいいのか?」
『プリースト、ハウス』
ぐぐ、と距離をつめるプリーストを手で制すショスナト。
プリーストは笑い、尚も毛布に身を包むその姿を眺めた。
「心配はしても必要ならば平気でエサにも肉塊にもするだろうに。所詮私達は怪物だよ。」
『でも無闇にはしないわ。』
「愛してるよショスナト」
『肉塊になりたいってこと?』
笑うプリーストを不快だと顔を険しくしながら見るショスナト。
そして大きくため息をつくと座席を移り横になった。
『もういい。不毛だわ。私を怪物にしたい男との会話は疲れる』
「明日も忙しい。よく休むといい」
『私に殺される前にプリーストも寝たら?』
ショスナトの言葉に先程のタブレット端末を掲げて見せるプリースト。
「私はもう少し映像を確認しておくよ」
『仕事熱心なこと』
そう言いながら既に重たくのしかかっていた瞼を閉じるショスナト。
プリーストは暫くその姿を眺め、その内端末に視線を移し研究対象についての報告書に目を通し始めた。
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202012
20230927