その愛の名前
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幸せそうに微笑むショスナトを前に、ロキは足元から世界が崩壊するかのような錯覚に陥っていた。
「…今、なんと…?」
『だからね?私、ホーガンと婚約しようと思うの』
ロキはよろめき思わずテーブルの上に置かれたいくつかのグラスを倒した。
中に入った液体が床に零れボトボトと音を立てる。
『どうかしら。』
「…どうかしらって、」
嫌に決まっている。
ロキは口をつきそうになった言葉に唇を噛んで耐えた。
目の前では満面の笑みを浮かべたショスナトが気まずそうな顔をしたホーガンと腕を組んでいる。
「……おめでとうございます、姉上」
『祝福してくれるの?』
「姉上の幸せは私の…幸せですから」
『うふふ、ロキったら。大好きよ』
嬉しそうに目を細めるショスナト。
その表情は本当に嬉しそうで、とてもでは無いが「婚約など有り得ない、絶対に許さない」などと言えはしない。
と、同じくショスナトの婚約発表を聞いていたソーが突然吹き出した。
気でも触れたのか、当然だ、とロキが目を向けるとソーは「もうむりだ」と両手で目元を覆っていた。
『…もー。ソーったら』
「すまない姉上…だが、ロキの反応があんまりだから…」
目には涙を浮かべ腹を抱えて笑い出すソー。
ショスナトは大袈裟なため息をつくとホーガンから腕を解いた。
「……嘘、ですか?」
『エイプリルフールよ、ロキ。』
「エイプリルフール?」
否定でも肯定でも無い返答に意味がわからず眉間の皺を濃くするロキ。
ホーガンに目を向けるとホーガンは冷や汗を流しながら手を振ってきた。
『ホーガン曰く地球の風習らしいの。なんでも"嘘を付いて良い日"らしくて。面白そうだからやってみちゃった』
「ハッピーエイプリル!」
「……」
ソーが笑いながらそう叫び拳を掲げると、ショスナトも堪えられなくなったのか途端笑い出した。
「……」
『ねぇ、ロキ。驚いた?』
「…それはもう」
『やったわ!ソー、ホーガン!』
力なく頷くロキの隣でショスナトとソーがハイタッチする。
ホーガンは胸を撫で下ろしソーと肩を組んだ。
「ロキにはこのサプライズが一番効くと思ったんだ。素晴らしい演技だったよ姉上」
「俺は胃が痛いよ…ショスナトの婚約者役なんて荷が重すぎる」
「似合ってたぞホーガン」
和気あいあいと言った風に"エイプリルフール"の成功に喜ぶ3人。
ロキはその様子を呆然と眺め、暫くすると背を向けて自室へと歩き出した。
『あ!ロキっ?怒った!?』
「用があったのを思い出しただけです」
『あ、それエイプリルフールでしょ!やだ、ごめんなさいロキ!怒らないで?』
「怒ってなんていません。姉上は楽しかったんでしょう?」
『とっても!それに凄く嬉しかった。あんなに驚くロキを見て、私愛されてるって泣きそうになっちゃった』
「……。」
うっとりとした表情を浮かべるショスナト。
ロキは睨もうとショスナトを見たがその表情に思わず口角が緩み、顔を背けた。
後ろからはソーが「姉上あとはよろしく!」とグラスを掲げ叫んでいる。
「…姉上の婚約者がホーガンなんて、そぐわないと思っただけです」
『あら、ホーガンは良い人よ?優しくて素敵じゃない』
「まさか本気…」
『さあ、どう思う?』
ショスナトの問いにまさかと歩みを止めて驚愕の表情を向けるロキ。
その顔にショスナトは随分おかしそうに笑った。
『冗談。私ね、ロキとソーが世界で一番大好きよ。
未来の夫がどんな人であれ、それでも一番大切なのは貴方達。』
「……」
ふわりと微笑むショスナトのその言葉に変わらない愛情を感じ安心するロキ。
しかし少し考えて、目を伏せて頷いた。
「…姉上がいつか最も愛する方と出会えるのを祈ってます」
その言葉にショスナトは少し驚き、そして微笑んだ。
ロキはそれを見て自身の"エイプリルフール"の成功にあまり喜べぬままに笑顔を浮かべてみせた。
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添削20250923
