嚆矢濫觴
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会議中。
全ての役員が主催者玉木常長に罵声を浴びせる中、無機質な携帯の着信音が間に入った。
玉木は片方の耳を塞ぎながら通話に応じる。
電話の向こうでは警報音が響いている。
それに続き、警備員が焦った声で叫んだ。
「レチッドエッグが……脱走……!?」
ガタガタッと大きな音をたて立ち上がる玉木に目を見開く役員達。
どういうことだと叫びだす彼らを玉木は手で制しながら顔を顰めた。
「…彼女は?……そうか……分かった。
どちらも直ちに捜索しろ。僕もすぐそっちへ行く。」
「おい玉木、レチットエッグが脱走だと?」
通話を切り、そのまま出て行こうとする玉木を1人の役員が制す。
玉木は苛立たしげに視線を落とし、笑顔を張り付け振り向いた。
「なァに、ちょっとしたハプニングですよ。今日はこれで失礼。」
「なんだと?っおい、玉木っ!!!」
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『っはぁ、はぁっ…!』
足をもたつかせながら走る女は、建物から外に出た途端ドシャアッと地面に倒れた。
ボロボロのワイシャツ、タイトスカートから伸びる足には幾つもの痛々しい擦り傷。
何故か全身びしょ濡れで、白いワイシャツには至る所に煤が付いている。
息を切らせ起き上がろうにも力が入らず彼女は小さく呻いた。
そこに駆け寄る2人の少年。
「大丈夫ですか!?」
『…あ…』
「怪我してる…!羊くんどうしようっ?!病院っ!?」
「医務室に行こう。ガンタくんそっちから支えてくれる?」
「わ、分かった!」
わたわたと腕を動かし辺りを見渡すガンタの前で落ち着いて女に手を伸ばす羊。
『…大丈夫です。このくらい…擦り傷です』
「どー見たってかすり傷じゃないでしょっ!ちゃんと治療しないと…!」
『今こんなものに構っている暇は、』
「……!!っ」
「!?ガンタ君!」
「…ッァぎ…」
女が手を振り払うと同時に突然胸を押さえ前屈みになるガンタ。
突然の事に驚きながら手を伸ばす羊の隣で、座り込んだまま視線を周囲へ巡らせ続ける女は鳴り響く時計に視線を上げた。
そこには、1人の赤い人物。
『…来た…』
「……!…なんでDWに……」
途端、巻き起こる風。
それは瞬く間に大きな渦を巻き、近くにいた人間の身体を雑巾のように捻りあげた。
現実とは思えないその目の前の出来事に全員が全身を凍らせる。
巻き起こった竜巻は辺りの全てを巻き込んでゆき、周囲の人達同様に羊は飛ばされてきたコンクリに頭を打たれた。
倒れる羊。
それを見たガンタは怒りに身体を震わせ、突如現れた赤い人物を睨んだ。
「お …ま… え……があ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ァ゙ア"ァ"ア"」
『っ!?』
絶叫するガンタの右手から猛スピードで放たれる何か。
それは赤い人物に命中する。
倒れたままの羊と女が驚愕の表情でガンタと赤い人物を交互に見る。
赤い人物を覆うように巻き起こる土煙。
それが段々と晴れてくると笑みを浮かべた赤い人物の姿が見えた。
「…ヤー こんにちはウッドペッカー」
それだけ言うと建物の屋上に一瞬で飛んでいく赤い人物。
ガンタはそれを追おうと駆け出すが、すぐにその場に倒れ込んでしまう。
女はガンタに駆け寄り生存を確認すると、赤い人物が先程までいた時計を見上げ目を細めた。
『……ちゃんと見てる?』
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2020