蛾と梟
あなたの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
梟としての知名度が上がるにつれ報酬の額も上がったが、依頼は以前にも増して血生臭いものばかりになった。
そんな中用心棒としての依頼。
久しぶりの昼中の仕事。
それには気持ちも舞い上がり、護衛対象をロクに調べもせず簡単に引き受けてしまった。
「音も立てず命を狩りとる"梟"か…。随分な異名だ。人を殺し大金を得るのはどんな気分なんだ?」
『……』
「まぁ腕はあるかもしれんが、私にキズ1つでも負わせてみろ。報酬は無い。ミスすれば命を刈り取られるのはお前だからな。」
『……』
車の後部座席で並んで座る護衛対象は、随分とよく喋る粗悪な猿だった。
最近はこんな粗悪な輩の依頼は少なくなっていたのだけど、調査を怠った罰なのか今回は大当たりを引いてしまったらしい。
「しかし噂のお前はまるで影か煙のようと聞いておったが…そんな姿をしていてそんな事があるか?」
ジロジロと見てくる猿という名の護衛対象。
今私は身バレしたくない一心で仮面をつけ金色のカツラを被っていた。
わざとらしい黒い服も相まって、記憶に残りやすいことこの上ない。
だが私はいつも護衛の時は様々なカツラを被っている。
毎度違うし、だからこそ噂にもならない。
明らかな変装なのに、こんな発言をするような依頼主は今後の為になりそうにない。
後始末はしっかりしておいた方が良いのかも。
「うお!?くっ!何してる!!」
ガクン、と車が揺れる。
急ブレーキを踏んだらしい。
すると護衛対象が前方を見ようと身を乗り出し、肩を強引に引く。
代わりに前を覗くと、見覚えのあるスクーターが前方に転がっていた。
どうやらわき道から飛び出して来たようだ。
「チッ!なんだあいつは!」
「申し訳ありません、少し迂回して、」
「まて!必要ない。おい、行け。片付けろ。腕を見てやる。」
『……』
暑いし視界も悪いが、苛立ちを隠さず表情に出せるのが仮面の利点だ。
猿は鼻息を荒くし私の返事を待っているようだが、ただ飛び出してきただけの一般人に何をしろというのだろう?
「早くしろ!」
『応』
痺れを切らした猿が叫ぶ。
いくら反論した所で意味はないし、仕方が無いのでダサい返事をして車から降りた。
本当は『御意』と迷ってたけど、従ってる感じが強い気がしてやめた。
車を降りると風が仮面の隙間に当たって心地良い。
この格好は夏場は向かないから改善の余地ありだ。
『……。』
車に轢かれたスクーターは側面が凹みタイヤが取れていた。
傷だらけのヘルメットが足下に転がり、事故の酷さを物語っている。
「いっってぇな!!!救急車呼んで!早く!救急車!!」
しかし当のスクーターの運転手、銀時は目の前で額から血を流しながらもぎゃあぎゃあと騒いでいた。
______________
20230831添削
9/9ページ