蛾と梟
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ーー『おいそこの客の擬態した粗大ゴミ。』
「あ?」
地味な着物に身を包んだ男の前に立った私は怒りのあまり泣きそうだった。
ここは団子屋侘助。私の大切な店。
店長の作る団子は日本一美味しい。
そこに来た2人組の男の片方が、そんな私の大切な店の大切な団子にあろう事かマヨネーズをバカみたいに掛けまくっていた。
怒りに手が震える。
団子へのこんな凶行、店長には見せられない。
『お前。今。団子に。一体。何してる。』
「は?見たら分かるだろ?マヨネーズかけて美味くしてんだ。」
『ハァア!!?美味くなる訳ないでしょうがそんな半固体状ドレッシングなんぞを掛けて!!!
ゴミがゴミの仲間求めて団子を汚染してんじゃねえこのゴミ野郎!!!』
「なんだとゴルァァ!」
怒鳴る私の口を押さえ付けてくるゴミ。睨み上げると睨み返された。
店長の悲鳴は聞こえない。もしかしたらあまりの衝撃に気絶したのかもしれない。
もしくは「またショスナトくん騒いでるなぁ」とか思いながら厨房にいる。
「トシぃ!?何してんの!?落ち着け!!ほら!マヨネーズだぞ!?マヨネーズ!」
「ちょ、近藤さんやめろ、顔面にマヨネーズは、ちょ、や、やめろ!!」
隣に座って写真見ながらブツブツ言ってた奴が突然マヨネーズをゴミにかけ始める。
この状況は中々トラウマになる絵面だ。
全年齢向けの団子屋で変なプレイはやめて欲しい。
と、マヨネーズまみれになった男が鋭い目付きで振り返ってくる。
「おい何だ?何の嫌がらせだ?」
『いやそれは私関係ないでしょ。ていうかお前が嫌がらせだ。出ていけ。というか滅せ。この世に血肉を残す事も許さない。テメェの吐いたCO2さえも焼き尽くしてやる。』
「オイオイいい度胸してるじゃねぇか。この店違法だっつって噂流して更地にしてやろうか?」
『アァ?出来るんならやってみろよ。その更地にテメェの首飾ってやるからさ。あ、冬にはライトアップしてやるよ。』
「まてまてまて!!ちょっとォ!?何急に物騒な話してんの!?そんな事したら俺らの方が違法で捕まるからね!!?」
生首(仮)が睨みあげてくる横から連れの客が慌てて止めに入ってくる。
来店時から思っていたが、この2人どうも見覚えがある。
さっき確か近藤と言っていた。
近藤。
…近藤……トシ……
『……あ!』
「あ?」
近藤勲。
思い出した。
真選組局長近藤勲。そして鬼の副長土方十四郎。
「なんだ急にうるせェな。」
「だぁから!トシ!!こんな可愛らしい娘さんにそんな怖い顔するんじゃない!」
『そうだこんな可愛い私の大切な団子を汚したクセに偉そうに睨むな目ん玉抉りとるぞ』
「近藤さん、これのどこが可愛らしいって?」
「あ、あれぇ~??」
真選組のトップ2と顔を合わせるなんて危ない綱渡りすぎる。
でもこんなお互い殺気をぶつけといてもう今更だ。
気付けば近くに座る常連客は私達の殺気で凍えている。
可哀想だが仕方ない。大人しく凍ってもらって勝手に団子追加しとこう。
「客に取る態度か?それが」
『はいダウト。お前以外が客です。退場しろ。』
「あぁもうやめてやめて!!2人共顔こっわ!!!ここ団子屋だよ!!?」
肩を押して離そうとしてくる局長。
よくよく考えると凄い状況だ。
団子屋で働く梟と真選組副長のケンカを真選組局長が止めようとしている。
それも武器も暴力も無しで。
『……』
「お?」
急に白けて…いや妙にこの状況が可笑しくて、真選組副長から目を逸らした。
目の前にいるのが梟だと気づかずこんなおふざけに付き合うなんて、真選組というのは随分可愛らしい人の集まりらしい。
「…なんだその顔」
『え?』
ハッとして顔に手をやるとどうやら笑っていたようで不審そうな顔の副長と目が合った。
睨み合ったかと思えば急にニヤけるなんてヤバい奴すぎる。
私だったらドン引きだし多分全国共通でドン引き案件だ。
でも、局長はゴリラだから常識が違うらしく私を見てニヤリとした。
「ハッハッハッ!!いやートシってば色男!!」
「は?」
どういう思考回路してんだか分からないがどうも盛大に勘違いした局長は副長の背中をバンバン叩き始めた。
あれがドラミングってやつなのかな。
まぁ何はともあれ不審者扱いで連行されなければ良い。
『…ま、今日は初見だし見逃してやる。お役人の給料ドッサリ落としてサッサと帰ってよね。』
「はあ?」
「アッハッハッッゲフォックッ!!」
『おじいちゃんみたいな噎せ方だなオイ』
笑いながら噎せるゴリラに若干引きながら、適当に伝票に大量の追加を書いて2人に背を向けた。
今日で懲りて、もう二度と来ませんように。