蛾と梟
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「うわ居やがった」
『うわ営業スマイル無駄にした』
暖簾をくぐり入って来た客に満点の笑顔を向けると不愉快な顔面を乗せた不愉快な身体が立っていて後悔した。
「よう、ショスナトちゃん。久しぶり」
『あら金ヅルじゃん~久しぶり!』
「うちの局長を金ヅル扱いしてんじゃねぇよオイ」
『は?勝手に店に入って来て勝手に口を開くとはどういう了見だよ。何?何様なの?』
「お客様だ!!!」
タバコの匂いを身体から漂わせながら叫んでくる男に、店内の他の客も何事かと顔をこちらに向ける。
がすぐに「あぁ」と納得した様に顔を背けた。
真選組の局長と副長。近藤ゴリラと土方マヨネーズ。
この平和な店は、銀か彼らが来るといつも賑やかになる。
『あのね…よく聞きなさい。良い?優しく言うからちゃんと聞きなさい。』
「何だ」
『団子にマヨネーズかける様な奴は客じゃない。ゴミカスだ。ここを去れゴミカス。自分の星に帰れ。』
「今の言葉のどこが優しいんだ?あ?」
じろっと睨むと睨み返された。目付きの悪さが尋常じゃない。
こんなのがこの町の治安を守っているなんて絶対うそだ。
横のゴリラはニコニコ私を見ながら微笑むだけでちっともこの部下を止めようともしないし。
『わざわざお前に向けて声帯を震わせてやったんだ。優しいだろ』
「お前の優しさゲージぶっ壊れてんぞ。直してもらえそのアタマ。」
『脳みその代わりにマヨネーズ詰まってるクセに命令するな』
「黙れ団子女」
『店長聞きましたー!?褒められたよ私!!』
「褒めてねぇ!!!」
巷ではそこそこ人気もあるようだが、別に顔が整っててもこんな眼光鋭いマヨネーズで身体が出来てる男に惹かれるわけも無く。
隣の優しい顔したゴリラは別に悪い奴じゃないけど、どうも聞いた所に寄るとヤバいストーカーらしく恐怖しか感じない。
『で、今日は何しに?』
「団子屋に団子食いに来る以外用があると思うか?」
『私の顔見に来ただけかも知れないでしょうが』
「お前は何で暴言しか吐かねぇのにそんなに自信満々なんだ?」
心底引いた顔を向けて来るマヨネーズ。
この前もした会話をもう忘れているなんて、やっぱりあの頭にはマヨネーズが詰まってるとしか思えない。
『あのねぇ、マヨネーズかける奴には団子も何も出さないって言ったの忘れた?』
「この前それでトシ怒って先に帰ったもんなー」
「一々言わなくても覚えてんだよ。…チッ」
『舌打ち……?嘘でしょ反抗期なの?嫌だわパパ、あの子絶縁しましょ』
「でもなぁ…あぁ見えて良いトコもあるんだよ?」
「しょーもねぇコント始めんじゃねぇよ。何仲良くなってんだアンタ」
腕を組んで唸るゴリラ。
マヨネーズは居心地悪そうな顔をしているが何か言いたげで気持ちが悪い。
じっと見ていると私の視線に気付いた絶縁息子が気まずそうな表情で顔を逸らした。
気まずそう?何が気まずいんだ。
『何か言いたいことがあるならさっさと言いなさいよ。』
「…別に、……今日は…け…ぇ…」
『えぇ…声帯までマヨネーズになってしまったの?可哀想…』
「だから!…今日は…マヨネーズかけねぇで食ってやるから、団子出せよ」
『え』
驚いて固まった私を横目で見て居心地悪そうにタバコに火をつける反抗期息子。
ゴリラは嬉しそうにニコニコして「ね!」なんて相槌打ってくる。
『……』
「…なんだ。まだ何かあるってか?」
『…うちの店、店内禁煙なのでタバコ吸うなら出ていけクソ野郎。』
「もう俺二度と来ないこの店!!!!!!!」
わっと叫びだす絶縁クズはゴリラの制止を振り払い店から出ていってしまった。
やれやれやっと帰ったか、なんて一息つく私をゴリラがなんとも言えない表情で見てくる。
『あ、注文は?』
「…ショスナトちゃんって怖ぇな」
『いやストーカーの方が怖いよ』
なおも複雑な顔で見てくるゴリラは一体なんだと言うのか。
私はその謎を解明するためジャングルの奥地へ行く訳もなくゴリラ用の伝票になるべく高い商品の名前を書きなぐった。