蛾と梟
あなたの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
全て片付け、『2人で打ち上げしよう!』なんて無理に誘って町を歩いていたら背後から名前を呼ばれ心底驚いてしまった。
『なんだ、どこの輩かと思ったら只の天然パーマメント野郎か…』
「おい」
『パーマなら間に合ってます』
「俺だって間に合いまくってんだよ!!!」
『え…押し売り…?訴えます…』
いつの間にか隣を歩いていた似蔵は見当たらず、多分先に歩いて行ってしまったのだと思い焦る。
早く追いつかねば、と銀に背を向けると腕を引かれた。
妙に小さな手に振り向けば神楽の姿。
「団子?」
『いや、私は団子ではないよ』
キラキラとした目で見上げてくる神楽を後ろから新八が引き剥がしてくれる。
「お久しぶりですショスナトさん、今日はお仕事お休みなんですね」
『久しぶり新八。うん。看板娘はお休み。』
「誰が看板娘だ」
「え!?団子の移動販売じゃないアルか!!?」
じとっとした目で睨んでくる銀と私の間に驚いた顔の神楽が割って入ってくる。
『神楽は私を団子バージョンのアンパンマンか何かだと思ってる節があるよね』
「移動販売してるパン野郎は食パンマンアル!」
割って入ってこられた時顎をぶつけたのか、銀が顎を押さえながら神楽の頭を叩いた。
相変わらずな3人。
チラリと後ろを見るがやはり似蔵の姿は見当たらない。
「あ、そうだお前なんか用ある?
無いなら来いよ。今から飯でも食いに行こうと思っててよ。飯は人数居た方がうめーし。」
『……今私駄菓子屋で豪遊も出来ない程度の金しか持ってない』
「帰れ。」
シッシッと手で払われる。
ここまでハッキリ態度を変えられると最早清々しい。
「金の無い奴に用はない。立ち去れ早く。」
『クズに磨きかけてんじゃないよ。何?そんなにヤバいの?』
「仕事が無くてよ。もうほんっとーにヤバい。だからもうくれ。」
『仕事を?』
「金」
『死ね』
「いっでぇ!!!!」
持っていたバッグを銀の頭目掛けて全力で振り落とす。
隣を見れば随分消沈した神楽が私を見ていた。
…どうして似蔵と親交を深めようと思って打ち上げだとか理由つけてルンルンで店を探していただけの私が、こんな訳の分からない罪悪感に苛まれなくてはならないのだ。
銀は銀で大袈裟に地面に顔面めり込ませてるし。
大体、似蔵はどこへ?
店も決めていないから先に行ったとかではない。
もしかして、…帰った?
「…やっぱ何かあったか?」
『え?』
いつの間にか俯いてしまっていたようで、顔を上げると砂だらけの銀が額に手を当ててきた。
「熱は無ェな。」
『銀…その髪と顔をちょっとイケメンと交換したらどっかの自尊心低い女のヒモにはなれるよ』
「ねぇそれ褒めてる?褒めてるつもりなら病院行け。」
額に当てられていた手でそのまま弾かれる。思いの外痛い。殺意がわいてくる。
『神楽、新八。…今日は無理だけど、今度ご飯行こう』
「え!焼肉!?やったー!!!」
『そこは団子じゃないのかーグフッ!?』
目を輝かせた神楽が抱きついてくる。
骨が折れそうな恐怖に掻き消されそうになったが、やっぱり神楽は可愛い。とてつもなく神楽は痛い。無理だやっぱり痛い凄く痛い。
あまりの痛みに顔を背ける。
と、すぐそこの路地の向こう。壁に寄りかかる人影に気付く。
『、っ』
「ぐおおお!!!!?」
なぜだか身体がむず痒くて、名前を叫びそうになるのを必死に堪える。
何かにぶつけないと我慢出来なくなりそうで、神楽が離れた瞬間にもう一度バッグを銀の頭に振り落とした。
先程よりも凄い音を立てて地面にめり込む銀。
私のバッグは大丈夫だろうか。あと私の全身の骨。
「何しやがんだテメェェ!!!」
「もー、銀さん何してんですか」
「銀ちゃん道で砂遊びはやばいヨ。そんなんだから仕事も来ないアル」
「えぇえ!?いや待とう!?俺何も悪くなくない!?この団子女じゃん!!」
「大丈夫アルか?ショスナト」
『ギリギリ。』
「あっれれぇえ!!?俺って味方いないのかなァァ!!?」
『あはは。ださ。』
叫ぶ銀の隣では新八と神楽が呆れた顔で笑っている。
…そのすぐそば。
日の当たらぬ路地に、誰も知らない私の姿を知る唯一の男がいる。
前で日に照らされるのは友。背後の静かな日陰には同業。
『…ふふっ』
この状況が可笑しくてつい笑ってしまう。
大して知りもしないのに、こんな女を律儀に待っている似蔵が妙に愛おしい。
…わざわざ似蔵が待ってる。私を。私だけを。
そう思ったら胸が締め付けられた。
人斬りが趣味の、イカれた男なのに。