蛾と梟
あなたの名前
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気づけば目の前でサングラスをかけた男が刀を私に振り下ろしていた。
鉄のぶつかる音が響く。
目の前で火花が散った。
「へぇ…止めたねぇ」
ギリギリと音を立てる刀の向こうでサングラスの男が笑った。
『…突然何?通行人にいきなり斬り掛かるとか礼儀ないの?』
刀を弾き距離を取る。
チラリと見るとすぐそこの路地には血だらけの人間が転がっていた。
『おいたが過ぎるんじゃない?オニーサン。』
「そんな短刀携えて…アンタもそのおいたが好きな様に見えるがね」
遠巻きに確認するが呼吸はしていない様に見える。
すると低い笑い声が聞こえそちらを向けば、男がお鼻スッキリとかいうわざとらしい名前の何かを鼻に刺していた。
『…それ中身違法なおクスリ?
それとも花粉症?急性鼻炎?慢性?蓄膿症なの?動物アレルギー?気管支炎?』
「おいおい、なんだアンタ医者かい?」
『質問に質問で返すなんて言葉のボクシングかよ。駄目だぞ。この前私もそれでバイト先の店長に怒られたぞ。』
「そりゃ失敬。
生憎目が見えないもんでね。こうでもしないとアンタみたいな強いのとはやれないのさ。」
『ずっり。強化アイテムとか私も欲しい。』
はあ?と睨んでやるが効果は無い。
それはそうだ。目が見えないと今言っていた。
『………えっ。目が見えてないの?』
「そう言ったろう?」
『今日バルス食らったとかじゃなくて?』
「なんだいそりゃあ」
『ひぇぇ…』
驚いて後ずさる。
後ずさる私の方へ首を動かしてくるので本当に見えていないのか疑わしいがその目は開いていないので本当らしい。
手を振ったり投げキスしても盲目の鼻炎はガン無視だ。
「おやなんだい。俺が盲目じゃやり合ってくれないってのかい?」
『はーあ?』
「っ?!」
『こんなカッコイイ存在殺せる訳ないでしょ』
駆け出して距離を詰める。
反応は悪くはないが、首を晒したこの鼻炎を殺すのはわけ無かった。
だが、随分それは面白くない。
「…アンタ、何もんだい?」
『本名と偽名と通称と裏アカ名と黒歴史のイタイ名前、どれが良い?』
短刀を鞘にいれ懐に戻す。
目の前にある男の顔をしげしげと見つめるが目は全く開かず不思議な感覚に襲われる。
ただのタモさんファンでは無かったか、なんて考えていると首に冷たい感触が当たった。
「刀を収めちまうなんて、口は廻るが頭は廻らんらしい。」
『……よく空気の読めないつまんない奴って言われない?』
「俺ァ見たいだけさ。アンタの魂がね。」
『遠回しのプロポーズ?』
照れたような顔をしても意味が無いと分かっていてもついしてしまう。
さぁどうしたものかな?なんて考えてたら遠くから嫌な音が聞こえてきた。
「なんだなんだ。警察か。」
『通報されてんじゃん』
首から刀が離れ、もう一度辺りを見回す。
転がる死体。その中に立つ盲目の男と、短刀を持った女。
これは下手を打つと犯人は私だ。
『やめてよ巻き込むの!私まだ顔割れてないんだから』
「そりゃァすまない。もっと早く割ってやりゃあ良かったね」
『お前それ頭の事言ってるだろ。私の頭を割ろうとするな!』
カチン、と男が刀を収める。
サイレンの音は随分近くに迫ってきている。
「今日の所はこれで退かせてもらうよ」
『そうして盲目の人斬りさん』
「岡田似蔵さね。人斬り似蔵って言ったら聞いた事あるだろう?」
バイバイ、と手を振ったがバイバイどころか会話を続けられてしまった。
どうもこの男とは相性が悪い。
『ごめんけど聞いた事ないな。ま、宜しく似蔵。私はショスナト。梟って言ったら通じる?』
「梟だと?」
似蔵の顔が変わる。
梟なんて通称誰が付けたのか知らないが、[音も無く獲物を屠る殺し屋梟]だなんて随分と厨二臭い。
「…俺はツイてるね。あの梟と会えるなんて。」
『そう言われると嬉しいな。殺さなくて良かった。』
嬉しくて似蔵の肩を叩くと嫌な顔をされた。
何か言い返そうとも思ったが警察に捕まっては元も子もない。
挨拶代わりに似蔵に手を振って走り出した後、彼の目が見えない事を思い出した。
『うーん、やっぱり相性が悪いぞ。』