蛾と梟
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困ったなーなんて思いながら騒ぐ銀をぼぅ、と眺めた。
もう依頼主を斬って終わるのが良いかもしれない。
縁が無かったんだ。
銀は斬れないし、依頼主は斬れる。それだけの事。
『…って訳にもいかないよなぁ』
「は?お前ねぇ、んな仮面つけてボソボソちっせー声で喋って聞こえると思う?つーか何。ハロウィン?ハロウィンなの?菓子持ってねーからイタズラしましたってか?」
額からダラダラと血を流しながら銀が近付いてくる。
仮面をつけているし、バレることは無いだろうが、念の為の牽制として刀の柄に手を置いた。
「…オイオイ落ち着けよ、確かに俺ァ甘い匂いがするかも知れないけど、まじでお菓子は持って無いんだって」
足を止めた銀が両手を上げた。
ここは腹をくくって、少し痛めつけるくらいにして後はどうにか誤魔化そう。
まぁ銀はもう血だらけで痛めつけられてるけど。
「ねぇちょっと聞いてる?」
両手を上げたまま首をひねる銀。
地面を蹴ってその背後に回り込んだ。
「っと?」
『!』
目の前には銀の後頭部。
だった筈なのに、見慣れた洞爺湖の字が目の前を掠めた。
「お前ねー、そんなせっかちじゃ嫌われちゃうよ?腹減ってんの?」
『…』
ブン、と木刀を振る銀。
その隙にもう一度背後に回ろうと駆け出す。
が、刀は届かない。
「…なんだよ、本気でやり合おうって訳じゃなさそうだな」
『……』
「俺さー、今週ジャンプが土曜発売だったの思い出して急いでるとこなのよ。先週ちょっと急展開したマンガがあってさ。早く読みたいワケ。」
今度は真正面から行き、その鼻面目掛けて拳を伸ばす。が弾かれた。
「だから慰謝料請求とかってのは後にしてとりあえずコンビニ行きたいんだわ。悪ィけどさ、連絡先だけくれたら良いから。…あ!ナンパでは無いからね!?変な気もつなよ!?」
『……。』
無用な傷を付けてしまわないか怖くて最後の1歩が踏み込めない。だとしてもこんなに攻撃を防がれるとは思ってなかった。
焦る気がある一方、普段通りの銀の様子は嫌でも肩の力が抜ける。
焦れば焦るほど馬鹿馬鹿しくてやってられない。
「お?分かってくれた?」
『見逃そう』
「声ちゃんと出んじゃねーか。」
バレないよう出来うる限りの低い声を出す。
刀を収めれば銀も木刀を腰に差した。
「見逃すも何も、俺が被害者で請求する側なんだけど」
『……』
「ハイハイ!無口キャラね!ったく、中二病は大人になる前に卒業しとかねーとイタいだけだぞー」
はあぁ、と肩を落とした銀が倒れたスクーターを起こす。
後輪が無いのにどうするんだろう?と思っていたらそのままの状態で押しながら歩き出した。
外装が地面を擦り、嫌な音を立てている。
何とも哀愁が漂う。痛々し過ぎる。
何か手を貸したくとも今できる事は何も無い。
と、後ろで車のドアが開く音がした。嫌な予感。
「おい!!何故逃がす!!」
『……』
「私は片付けろと言ったんだ!キサマ!報酬は払わんぞ!!」
喚き散らす猿を無視して反対から後部座席に乗り込んだ。
冷房の効いた車内で固いシートに身を委ねていると隣から乗り込んできた元依頼人に更に怒鳴られた。
「聞いてるのか!!!」
『…依頼は護衛。殺しではない。』
「~っ」
それだけ言って目を閉じた。
きっと顔を真っ赤にして私を睨んでいるんだろう。
だけどどうだって良い。
私は友人は斬れないしコイツは斬れるのだから。
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20250930添削
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