裏方とヒーロー
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「クライスラー」
『長官!おはようございます』
「敬礼はいい。話がある」
『私にお話…?』
▽▽
『ロジャース!!』
「ショスナト?おはよう」
その日、ショスナトはいつもの時刻より30分程遅れて扉を乱暴に開けながらやって来た。
既にトレーニングを始めていたスティーブは自分に大股で向かってくるショスナトに少し驚きながら覚悟を決めた。
『なぁ、長官から聞いていたのか?』
「…昨日、ショスナトが帰ってから聞いたよ」
『………』
ギリリ、とショスナトが拳を固める音が妙に部屋に響いた。
スティーブは謝るべきかと目を泳がせ、次のショスナトの行動に咄嗟に反応出来なかった。
『君は最高の友人だよ!!!』
勢いよくスティーブに抱き着くショスナト。
スティーブは一瞬何が起きたか分からず呆然として、ショスナトはそんなスティーブにお構いなしに次々と謝辞を述べた。
『ロジャースのお陰だ!あぁもう!最高だ…君に出会えて良かった!史上最高の男だ!完璧だよ!』
「よ…喜んでもらえて私も嬉しい」
『俺も最高に嬉しいよ!!』
なおも離れようとしないショスナトの腕を必死にはいで、一息ついたスティーブはニコニコと満面の笑みを浮かべる目の前の"監視役"に微笑んだ。
「私がしたことは、君のサポート力が本当に素晴らしいと伝えたことだけだよ」
『だけど長官はその言葉で俺の裏方への異動を承認してくれた!』
『ロジャースのお陰だよ!』とはしゃぐその姿は普段のショスナトとはまるで違い、おもちゃを買ってもらえた子供のようでスティーブは口元が緩むのを抑えられないでいた。
――昨晩「自由を勝ち取ったな」と監視役が外される事を告げに来たフューリー。
そのフューリーにスティーブはショスナトの異動先として裏方が向いているのではと口利きをしたのだ。
実際のところとして、スティーブはショスナトが部隊に戻るのを願っていた。
彼ほど優秀な男は先頭に立って隊を率いていくべきだと。
しかしショスナトは戻ることを望まない。
そしてショスナトが望まないことはスティーブも同じく望まなかった。
「勝手な事を、と怒るかと思った」
『そんな訳ないだろ!ロジャースが何も言ってくれてなかったら、今頃俺は元居た部隊に復帰する準備をしてるさ』
それが最良で最適だからね。スティーブはショスナトと拳を合わせながら思った。
「でも私が推薦したからといって部隊長クラスの君を簡単に椅子に座らせられるものじゃないと思うし、フューリーも何か考えがあるのかも」
『構わないよ。どんな思惑があっても、ロジャースのくれた俺の大事なモニター前の椅子は絶対に死守する』
『絶対立ち上がらないんだ』と鼻息荒く断言するショスナトに笑い、ふと気が付く。
「監視は今日で外れるって聞いたけど、いつ行くんだ?」
『今日今からだ』
「…今から?今から異動かい?」
『あぁ』
動きを止めるスティーブに『ん?』と首を傾げるショスナト。
スティーブは首を振って、何でもないように微笑んだ。
「いや、ショスナトがいなくなるなんて…此処も寂しくなるなと思って」
『たまに顔を見せにくる。ロジャースも来てくれ』
「…行って良いのか?」
『もちろん!…目立つのは勘弁だけどな。君は俺の親友だから。歓迎する』
にかっと眩しい笑顔をロジャースに向けるショスナト。
そして何か思い出したのか時計を見て、慌てて荷物を片付け出した。
「どうかした?」
『上司に挨拶に行かなきゃ…時間に厳しいらしいんだ。
悪い、ロジャース。また会いにくるよ』
「もう?早いな…行ってらっしゃい。気をつけてね」
バタバタと部屋中を駆け回り、あらかたの荷物を胸に抱えると出入り口の扉へ走っていく。
スティーブはなんと見送るべきか言葉が浮かばず、咄嗟に出たまるで子供を見送るような言葉にしまったと内心後悔した。
ふ、と振り返るショスナト。
その顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
『あぁ!本当にありがとう!行ってきます!愛してるよ!』
ばたん、と閉じられる扉。
ロジャースは固まったまま、暫くその扉を眺めた。