裏方とヒーロー
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広い部屋の中、1人の男の荒い息と一定のリズムで皮を打つ音が響いていた。
『…ロジャース、20分経った』
「あぁ」
一つ大きく息を吐き、目の前で大きく揺れるサンドバッグを抑えると、ロジャースはテレビの前で寛いでいるショスナトの隣に腰掛けた。
『…あぁ!くそ、何でそっちにパスするんだ!』
「…サッカー?」
『そう。アメリカと日本で、もう2点も取られてる。ニンジャめ!』
「……」
『くそ!オフサイドだ!』と天井を仰ぐショスナトの様子を水を飲みながら眺めるロジャース。
普段は静かに座ってロジャースを監視しているショスナト。
だが今日は来た途端サッカーの試合を見始め、監視もそこそこに試合の経過に声を荒げていた。
「随分楽しそうだな」
『スポーツはやるのも見るのも好きだ。…世界大会以外見ないけど』
「へえ?意外だ」
『これでもバスケは州大会出てる。驚きだろう?』
「君が?」
口癖のように『目立ちたくない』『裏方の夢が』と言っているショスナトの過去にしては随分と意外で、ロジャースは素直に驚きの声を上げた。
『あの頃は馬鹿だったし、負けるのが嫌だったんだよ。思春期ってやつだ』
「いや、すまない。凄いことだ。州の代表だなんて」
ロジャースの反応で、ショスナトが羞恥も相まって怒ったように睨む。
その顔にもう一度「すまない」と言いながらロジャースは笑った。
『…そうだ、ロジャース。バスケしないか?』
「え?」
『いつもシャドーボクシングか砂袋殴ってるだけだろ。
俺だってタイム測ってばっかりだし。たまにはスポーツをしよう』
良い事を思いついたとばかりに揚々と立ち上がるショスナト。
サッカーの試合はまだ終わっておらず、点差も縮んではいない。
ロジャースはその腕を掴んで引き止めた。
「いや、どこでするんだ?」
『ここしかないだろう。出られないし』
「誰が?」
『ロジャースと俺と………俺とロジャースさ』
「……」
ゆっくりとソファに座りなおすショスナト。
部屋にはテレビの歓声の音が響いている。
「ショスナト、流石に無理だ。気持ちは嬉しいけど」
『…2人でも出来る。それにスリーマンセル位の人数なら集められるさ』
「…そんなにバスケが好きなのかい?」
『組手の相手をさせられるよりはマシだ。』
『バスケなら勝てるし』と笑い、もう一度立ち上がるショスナト。
そして以前印をつけたカレンダーの元へ行き唸った。
『そうだな、明日声を掛けて回って…確かクイントが休みだろ…ジョンは……』
「……」
壁に掛かったカレンダーの前に立ち、ブツブツと言いながら考え込むショスナト。
ロジャースは諦め立ち上がると、その隣に立って同じくカレンダーを眺めた。
『…ま、集められたとしてココだね』
「………この日?」
トン、とショスナトが指さす日付。
それは今から3日後で、そして約束の"1週間"の翌日だった。
『……』
「……。」
何も言わずじっとカレンダーを見つめる2人。
そして不意にショスナトがロジャースを見上げた。
『…何か予定あるのか?』
「……いつも通りだ」
『俺もだ。じゃあ、この日の14時からにしよう』
「…。」
ロジャースの返事を待たずに頷き、カレンダーに“バスケ”と記入するとそのまま身を翻しショスナトはソファへ戻る。
「……なぁショスナト、」
『サッカー見ないのか?』
何か言いかけるロジャースの声を遮るように、テレビから視線を外さずに言う。
ロジャースはそんなショスナトが可笑しく、しかし笑えばまた睨まれるからとショスナトに背を向けて静かに微笑んだ。
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20230828添削