裏方とヒーロー
あなたの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ゆっくりと息を吐き精神を落ち着かせたショスナトは、開けた扉の先で人当たりの良い笑みを浮かべていた。
「君がクライスラー?」
『はい。キャプテンアメリカさんですね?』
「はは、名前はあるよ。スティーヴ・ロジャースだ。」
「宜しく」と手を差し出す男にショスナトは一礼し、その手を握った。
『ロジャース。私はショスナト・クライスラー。
…正直貴方が存在するというこの状況にまだ頭が追い付けてない。失礼があれば何でも言って下さい』
「何も無いよ。もっと気難しそうな人が来ると思っていたから、私も安心だ。」
爽やかに笑うキャプテンアメリカ、ロジャース。
少し身体は大きいが特段変わったところは無いように思える目の前の男に、内心戸惑いながらショスナトは苦笑した。
『お堅い監視役はヒーローには不要でしょう』
「私は化石みたいなものだよ。それにヒーローには監視なんかつかないさ」
『私はお偉方へのマネキンに過ぎません。貴方はヒーローですよ。…子供の頃の私に教えてやりたい。今ここにいられるのはとても光栄だ。』
ふ、と笑うショスナトは『まぁ任務なので監視は緩めませんが』と続け、ロジャースは少し驚いた顔をしてまた爽やかな笑みを浮かべた。
「優しい人だね。」
『ここでは珍しいかもしれませんね』
冗談めかすショスナトはニコニコと微笑んでいるロジャースを横目にぐるりと部屋を見渡した。
広い部屋には最低限の物しか置かれておらず、その為近くに転がるサンドバッグが異彩を放っていた。
『…ところで、あれは?』
「身体を動かさないと鈍るから。君もやる?」
『いえ。私は武闘派ではないので』
そう言って首を振るショスナトにロジャースは怪訝な表情を浮かべた。ショスナトはその反応に違和感を感じ『何か?』と訊ねる。
「…監視役が付くと決まった時、長官に一つだけ頼んだ事があるんだ」
『なんと?』
「此処にいる優秀な戦闘員をつけて欲しい、と」
『……』
ショスナトは愛想良く浮かべていた笑みを崩し、小さく舌打ちして顔を顰めた。
ロジャースはその反応に困ったように首をかく。
『…俺は本来、情報管理担当のスーツ野郎になりたくて来たんだ。
動乱の現場から退く為に、此処に来たんだ。』
「スーツ野郎?…私の監視役に選ばれた君がかい?」
ロジャースの言葉に何か言い返しかけたショスナトは結局何も言わず、身を翻し歩き出した。
「どこへ?」
『長官の元へ』
「何故だい?」
『俺はそこに転がるサンドバッグになる気はない。
…隊長のクセに脱隊なんて申し出た俺を廃棄処分するって魂胆だな。くそ。最低だ。』
頭を掻きながら扉へと向かうショスナト。
ロジャースは慌て、その背を呼び止める。
「どうして脱隊なんて、」
『ヒーローには分からないか?嫌なんだよ戦うの。死にたくない。』
「だったら何故S.H.I.E.L.Dに?守りたいものがあるからじゃないのか?」
『……その大切なものを守る奴らをサポートしたいからだよ』
一度は足を止めるショスナトも、話は終わりとばかりに足
を進める。
呼びかけても今度こそ振り向きはせず、ロジャースは一瞬悩み、そしてその背にコーラの瓶を投げた。
そして瓶の割れる音が部屋に響き破片が床に散った。
___________
20230828添削