その他短編
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「分かったって。あぁ…はいはい。…あー、明後日だろ。覚えてるから。」
煩わしそうに話す彼は、そんな口調の割には随分ニヤついた顔で電話を握ってる。
胃がむかついてくる程の幸せそうな表情。
あいにく僕には向けられたことの無い表情。
そんな電話の相手は、大きな声でよく喋る男、ベンジー・ダン。
「分かったって。何回も言うなよ、忘れないって」
《前科あるだろ?あーあ。イーサンなら必ず間に合わせるんだろうなあ》
「またイーサン…」
ちらりとこちらを見てくる。
はああ…とわざとらしいため息は、電話の相手と僕に対しての両方だ。
肩を竦めるとプイと顔を背けられた。
「あれは忘れたんじゃなく仕事が長引いたから。ベンジーのヒーローだって無理さ」
《そうかも知れないけど…あ、ショスナトさ、一回イーサンと会って色々勉強してみたら?》
「…あのね、俺だって傷付くぞ。そりゃ完璧人間じゃないけどさ、俺はベンジーのこと誰よりも大切に、」
「ショスナトは完璧で最高の人間だよ。エージェントとしても。」
まるで告白のような台詞を吐きかけるショスナトの言葉を遮ると睨まれた。
微妙な空気の中《いや、ショスナトは最高だけど完璧じゃないよ》と声が聞こえてくる。
第三者の声が聞こえたことにも、その声が僕だということにも特に驚いた様子はない。
というよりも僕だと気付いていないみたいだ。
《ホントこれ以上ないくらい最高の友達だけどね》
「ベンジー…俺もそう思ってる。お前は俺の親友だよ」
泣きそうな顔のショスナトとは反対にベンジーは《はいはい》と軽く一蹴。
暫くして満足そうなショスナトが通話を切ると、今度は不機嫌そうなショスナトがこちらを向いた。
「邪魔するなよ」
「応援をしたつもりだったんだけど」
「どこが。言ったよな?俺はイーサン・ハントと面識が無いって」
「ベンジーは僕だと気付いてない」
「お前の大ファンだぞ?気付いたらどうしてた。俺が責められるんだぞ?」
珍しくショスナトが鼻息荒く頭を乱暴に掻く。これは怒ってる。
宥めるのと同時にスキンシップを取るつもりで背中に手を伸ばすが案の定逃げられた。
「元はと言えばショスナトが嘘をつくからさ」と、行き場を失った手のひらを見つめているとショスナトの顔が視点からズレてボヤけた。睨まれているから、丁度いい。
「…俺がお前と知り合いなんて言ってみろ。たちまち話題は英雄イーサン・ハントだ。永遠にだぞ」
「大袈裟だね。無視すれば良いだろ?それか、話題を変えれば良い」
「変えても戻すさ。…任務から戻った俺をキラキラした目で見上げて“今日も最高だったな!”なんて言ってくれてたベンジーが、俺を一番のエージェントだと思ってくれてたベンジーが、…第一声が“イーサン”、その次も“イーサン”、その後に付け足したみたいに“あぁそうだ任務おつかれショスナト。”ってなもんだ。ふざけてる。」
「あと、無視は有り得ない。論外だ」と鼻を鳴らすショスナトには呆れて瞬き以外の反応が出来ない。
どうしてショスナトは、こんなにベンジーにのめり込んでいるんだろう?
見た目も性格も能力も、何もかもが最高の形で揃った彼が。あのベンジーに。
…いやベンジーが悪いという訳じゃない。
それは確かだけど、いつも隣に居たのはベンジーだけじゃなかった。
こんなに長く、伝え続けている僕は彼にどう見られているんだろう。
「…言っとくが、明後日邪魔したら家を爆発して恥ずかしい写真をネットに流して社会的に殺した後エージェントをクビにさせるからな」
「そんな事しないよ。君に嫌われたくないし、第一仕事も人生も失いたくない。」
そう言うと納得したように頷くショスナトは「まぁそうか…言い過ぎた。悪い。」と居心地悪そうに顔を背けた。
優秀なエージェントが、ただの普通の人間になる。
彼が素の姿を見せるのは、当面は僕…とベンジーだけ。
「……愛おしい君の言葉ならなんだって受け止めるよ」
そっと近づいて、後ろから抱き締めて後頭部にキスを落とした。
愛してる。
心の中でつぶやくと、それに答えるかのようにショスナトから腹部への打撃と足首への打撃と顔面への打撃がプレゼントされた。
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2016〜
2024-12-06添削
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