その他短編
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『イーサン・ハント?』
「あぁ、実在したんだ!すっごいんだよ!」
『…ふーん』
「何、疑ってる?」
『いや別に』
目の前で興奮して捲し立てるベンジーはやっぱり子供にしか見えない。
この前『お前って子供みたいで可愛いよね』って言って一週間口をきいてもらえなくなったからもう言わないけど。
代わりにハア、と息を吐くと勘違いしたベンジーがムッとした。
「ショスナトって嘘下手だよね」
『嘘が下手なエージェントって最高だろ。で、ハントがなんだって?』
「そうだ、聞いてよ!彼ってさ、」
聞いてるよ。
全く愉快でない内容をツバを飛ばしながら身振り手振りで話す目の前の男は、俺の気持ちなんて知りもしない。
同期でずっとつるんできた大親友の俺(自分でいうのもどうかと思うけどさ)の事より、彼は超人イーサン・ハントに夢中だ。
『はいはい…それでベンジーは彼に惚れたわけね』
「もうバッチリね!ハートを凄い勢いで持っていかれたよ」
『それ俺がエージェントになった時も言ってた』
「君にはジーンズが窮屈になったって言ったんだ」
『そうか、心はイーサンで身体は俺のものなんだね。抱いてやろう。』
「止めろよ気色悪いな!」
『ははは。いてっ』
小突いてくるベンジーは全く何も意識してはいないらしい。
そりゃそうだ、男が2人いれば下品なジョークだって飛ぶ。それだけのこと。
だけど俺にはそんな単純なことじゃない。
「ショスナトにも見せてやりたかったなー」
『ベンジーの活躍?』
「そんなのいつも見てるだろ」
『確かにそう思ったけどフツー自分で言うか?』
ベンジーは未だにヒーローから目が覚めてないらしい。
はあ、と熱の篭ったため息をゆっくり吐きながら視線は宙を見たまま。
つまらない。
ベンジーがいつもカッコイイと言ってくれたのは俺だった。
なのに任務を終えてベンジーに「凄い」って言われたくて戻った俺に彼はずっとイーサンの話だ。
「ショスナト、どうかした?」
『別に。ベンジー嬉しそうだなーって思って』
「そりゃそうさ!…あ、分かったぞショスナト!羨ましいんだろ?」
『バレた?』
適当に答えるとふふん、と俺より背の低いベンジーが椅子の背もたれに寄りかかりながら見下ろしてくる。
随分自信気で偉そうだ。
いかにも子供らしい。…いやオッサンだが。
「たまには俺も良い思いしないとねー」
『俺の親友って凄く特別でレアだけど』
「確かに君は優秀なエージェントだし憧れてる奴は多いよ。お陰で毎日君の事ばっかり訊かれる。
最高だね、君の親友だとこうなる。やあベンジー、元気?ところでショスナトの好きな物は何?って。」
『えーと…ごめんなさい』
「ショスナトも俺の事訊かれまくって困れば良いよ」
『そうだな…そしたらベンジーが好きなものはイーサン・ハントって答えとく』
「や、やめて!!」
ニヤリと悪い顔で見下ろすとベンジーが今度は慌てて手を振りながら目を丸くする。
可笑しくて可愛くて不意に吹き出してしまった。
ベンジーの顔が赤くなる。
「その言い方だと惚れてるみたいだ!」
『似たようなもんだろ。』
「いや、確かに憧れって意味じゃ好きだよ?けどそれはさ、ほら、そんな事言ってたらショスナトの事は大好きだ。
君とは親友だし尊敬してるし、あー、なんて言ったら良いかな、えー…いややっぱりショスナトにも会ってもらいたい!俺の言いたい事絶対分かるから!だってさぁ、」
焦って捲し立てるベンジーは相変わらずだ。
焦ると兎に角喋りまくる彼には下手に相槌も打てない。
こういう時は少し黙って聞いておいて、頃合で適当に相槌をうてば良い。
『はいはい、いつかミッションでね』
なんとかため息混じりに返すと、ベンジーは調子づいた様に笑顔でまたイーサンのことを話し出した。
どうも言葉を間違えたみたい。
楽しそうだし、まぁ、良いんだけどさ。
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202300819加筆